白いアヒルの罠

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 時間が合うときは外で待ち合わせ場所を決めるようになった。落ち合ったあとは二人で買い出しをしてから家に帰ってくる。  箱で食材が届くことはもうない。あれからもまたさらに一度やられたが、どうかもうやめてくれとげんなりしつつ懇願した。 あの食材は俺には荷が重い。スーパーでは見かけないような珍しい野菜よりも馴染み深く庶民的なニンジンの方が気も楽だ。  スーパーから出てきた後の手荷物は結構な重さになる。俺一人であれば絶対にこうはならない。程々の分量しか買い入れないのが常だ。  明らかに余分な買い込み方をしてしまうのは、隣にいるこの男が原因。 「買いすぎですってば」 「余ったら明日に回せばいい」 「懐に余裕のある大人な男のそういう所が嫌いです」 「お前はしっかり者の主婦みてえだな」  睨んでも効果はない。片手にぶら下げていた買い物袋は横からサッと掠め取られた。 「持てますよ」 「重いだろ」 「大丈夫です。か弱い女の子とは違うので」 「たまには俺にもポイントくらい稼がせろ」  俺はポイント制のサービスじゃない。 「……俺相手にそんなもん稼いでも使い道はないですよ」 「積もり積もっていずれは落とす。覚悟しとけ」 「すっごい自信ですね」 「こうでも言っておかねえとな」  自己暗示みたいなものだ。瀬名さんは静かに付け足した。自信満々とそうでないのとを行き来する男は難解だ。
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