白いアヒルの罠

3/10
前へ
/1392ページ
次へ
 徒歩圏内にあるスーパーからの道を二人でゆっくりと歩いて、あれこれと言い合いながら時間をかけて帰ってきた。目指したのは俺の部屋。ではなくて、その隣の部屋に二人で入った。瀬名さんの部屋にお邪魔するのは今日で二回目になる。一回目は三日前。  一人暮らしの男の部屋にしては妙にきっちりとしたこの違和感。女の影とかではない。部屋を散らかすだけの物がなかった。 「前に入った時も思いましたけどかなり殺風景な部屋ですよね。ウチと同じはずなのにすげえ広く見える」 「これといった趣味もねえからな。必要最低限の物があれば生活できる」 「どうなんですかそれ。帰ってからはいつも何してるんです?」 「仕事」 「うわ……」  なんとなく予想はしていたが。本当にその通りの答えが返ってくるとは。  飄々としているように見せかけて真面目が過ぎるこの男は、ライフワークバランスを保つどころか完全に仕事一直線だ。 「ちゃんと人生楽しめてますか」 「失礼なこと言われたのは分かった」 「だって昼間仕事して夜もまた仕事するとか異常でしかないですよ」 「言いすぎだ」  そんな事はない。バイトしかしたことのない俺の目から見てもワーカホリックだ完全に。 「たまにはちゃんと息抜きもしないと」 「お前と話してる」 「それは息抜きって言いません」 「言う。充分。俺にはこれが一番いい」  もしかすると瀬名さんは仕事ばっかりしていたせいで頭がおかしくなったんじゃないだろうか。それならまだ納得できるが、残念ながらこの人が取る基本的な行動はもっぱらまともだ。  今も買いこんできた食材をテキパキとテーブルの上に出している。要冷蔵の物はサクサクと冷蔵庫の中にしまい込まれた。
/1392ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6492人が本棚に入れています
本棚に追加