白いアヒルの罠

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「なんならデートくらいしてくれてもいいぞ」  パタンと冷蔵庫の扉を閉めて、振り向きざまにそんな事を。  冗談やめろ。何がデートだ。 「嫌ですけど」 「そう言うだろうとは思ったが傷つく。息抜きさせたいのか塞ぎ込ませたいのかどっちかにしとけよ」 「息抜きは勝手にしてください。俺を巻き込むなら塞ぎ込ませます」 「今どきのガキはだいぶ冷めてる」  口ではそんな事を言いつつも瀬名さんの顔は楽しそう。そしてやっぱり行動は迅速。俺が何を言わずとも野菜の袋をガサゴソと開けて自ら雑用を買って出ている。  使われている形跡があまりなさそうなここのキッチンはピカピカだ。先日来た時にはもっと少なかったはずの調理器具が今日は申し分なく揃っている。なんもねえなと俺がボソッと文句を垂れたからだろう。この人は三日で買い揃えてきた。 「ところで何を作るんだ」 「いま聞くんですかそれ。分かんねえのに勝手にどんどん袋開けないでくださいよ」 「分かりはしねえがとりあえず開けてみた」 「瀬名さんは頭いいようで結構バカですよね」  開封したところで腐る訳ではなくても中身がバラけてしまって邪魔だ。ゴロゴロ転がるジャガイモを見下ろし、何を作るか考える。  スーパーでは瀬名さんがポンポンと食材をカゴに入れていくから考えている暇がなかった。食材がありすぎてもメニューに困るが、この男はそれが分かっていない。 「どうすっかな……逆に何食いたいです?」 「なんでもいい」 「それが一番困りますね」  女心の分からない男が毎日家事に忙しい奥さんを激怒させるための模範回答だ。
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