白いアヒルの罠

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 いいからさっさとリクエストを寄越せと視線で訴えかけてみると、瀬名さんは数秒黙り込んだ後にその口を開いて一言。 「ならオムライス」  オムライス。チビッ子たちからはだいたい人気を獲得する黄色いアレ。 「……予想外です」 「可愛いだろ」 「何アピールですか」  そう来るとは思わなかった。オーソドックスなメニューではあるが瀬名さんに出したことはない。だってなんか似合わねえし。  作るのは簡単だ。なんら難しいことはない。実は得意な料理でもある。卵も鶏肉もちょうど良く揃っている。この人がポンポンとカゴに入れていった食材のうちの一つだ。  しかしながら、瀬名さんとオムライス。オムライスを食う瀬名さん。こんなにしっくりこない組み合わせも珍しい。 「え、ホントにオムライスでいいんですか?」 「なんでもいい」 「だからあ」  これ以上聞いたところで無駄だろう。どうせお前のメシならなんでも美味いとか言うに決まっている。自惚れじゃなくて。  もういいや。オムライス作ろう。庶民的なオムライスを食わせてやる。瀬名さんがむやみに開封してくれたジャガイモと人参とピーマンはスープにでもぶち込んでしまえばいい。 「オムライスにケチャップでバカって書いてやりますからね」 「それなら俺はお前の分に愛してるって書いてやる」 「やめろ」  重い。
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