白いアヒルの罠

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「アヒル?」 「ええ。いるんです、実家に」 「アヒルってのは飼えるもんなのか」 「飼えますね。毎日ウチの庭歩いてたので」 「……食用?」 「違いますよ。なんてこと言うんですか」  俺と一緒に育ったアヒルを食用にする気は毛ほどもない。説明するより見せた方が早いと、取り出したスマホの画面を隣から瀬名さんの方に向けた。  画面にはアヒルが写っている。実家の庭でペタペタ気ままに散歩をしていた時の写真だ。縁側からなんの気なしに撮っただけだが結構いい写真だと思う。それをこの人はまじまじと見ている。 「……こりゃ食えねえな。意外と可愛い。名前は?」 「ガーくん」 「オスか」 「メスです。卵産むんで」  瀬名さんの眉根が寄った。不可解そうな目で俺を見てくる。 「……ガーくん?」  見るからに納得いってないって顔。 「あのですね、元はピヨちゃんだったんですよ。死んだじいちゃんが名づけました。でも育つにつれてピヨ感なくなっていったんで、見かねた母さんがいつのまにかガーくんって呼ぶようになってたんです」 「アヒルもまさか途中で改名されるとは思ってなかっただろうな。せめてメスならガーちゃんにしてやれよ」 「それだとちょっと語呂が悪いそうで」 「……そうか」  今度は何かを諦めた顔をされた。
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