白いアヒルの罠

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 瀬名さんはガーくんに興味を持ったようだ。うちのガーくんはペットのアヒルにしては長寿で、人間の年齢に換算するとおそらくすでにばあちゃんだろう。それでもケツを振りながらペタペタと歩く姿は何年経っても可愛く見える。  あまりにも写真をじっと見ている瀬名さんにはスマホごと手渡した。懐くのかと聞かれて割と懐くと答えれば感心される。動物は好きらしい。実家には猫がいるそうだ。アヒルにとっては天敵だ。 「他にはないのか?」 「え?」  アヒルの写真はこの一枚だけか。その意味の問いかけとともに、瀬名さんの指先が軽くスマホ画面に触れた。  微笑ましいアヒルの姿を映し出していたスマホ。その画面が、瀬名さんの指に従ってサッとスライドさせられる。 「あ……」  その瞬間を、見た。はっとした。瞬く間に顔面からサッと引いた血の気。瀬名さんも画面に目を向けたまま、そこで動きを止めている。  ガラケーの時代はとっくに終わったし当然にスマホを使ってはいるが、機能の多くは持て余している。高画質を誇るカメラも俺にとっては不要の産物。  最近撮った写真と言えば、実家を出る前に写したこのアヒルくらい。ガーくんの歩く姿が最後だった。食べ物を欠かさずカシャカシャカシャカシャ撮っておくような女子とは違ってその程度の使用頻度だ。ガーくんの写真を撮った後はカメラを使っていなかった。  あれから使ったのはとある夜の、たった一度のみ。のほほんとしたアヒル画像を一つだけスライドさせれば、次にはその一枚が目に触れる。  その一枚。その一枚が、瀬名さんだった。小さく映ってる。瀬名さんの写真だ。
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