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「すまん」
なぜか、謝られた。隠し撮りをされた人がそう言って、固まる俺にはそっとスマホを差し出してくる。それをぎこちなく受け取った。
「悪かった。勝手に」
「……いえ」
追及されるどころかまさかの謝罪。瀬名さんは悪くない。何も考えずにスマホごと渡した俺が悪い。と言うより隠し撮りをしたのがいけない。
「遥希」
反論はしない。弁解もできない。何か言いたいなら言ってくれ。俺はきっと何も言えないけど、嫌味を投げつけられるなり怒られるなりされた方がずっと気は楽だ。そう思いつつ、視線を下げた。
「……はい」
「見なかった事にした方がいいか」
「…………」
この人が寄越してきたのは、俺が身構えたどれとも違う言葉だった。嫌味もからかいも飛んでこない。怒っている様子もない。
どういうつもりか。多分どういうつもりでもないのだろう。そこに裏なんてものはない。だってこの人は、いつでも俺のために逃げ道を用意する。
「…………できれば」
親切な人による最大限の恩情を謹んで受ける事にした。顔面の筋肉が硬直している。死にたい。いま死にたい。
「大丈夫だ。何も見てない」
「…………どうも」
すごく気を使われた。
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