好きな人

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 俺が約束していた相手は浩太だ。待ち合わせには駅前のカフェを指定されていた。日曜の、昼よりも少し前。外はどこもかしこも人間だらけ。ガヤガヤとした街中の雑踏は気を紛らわすにはちょうど良かった。  約束通りやって来たカフェ。店に入ればすぐさま浩太が俺に気付いてこっちこっちと手を振ってくる。  しかしそこで俺が見たのは予想外の光景だった。待っていたのはあいつ一人じゃなかった。その隣にもう一人いる。浩太の隣の女の子を見て、ハメられたのだとようやく気付いた。 「じゃ、そういう訳だからさ。実は俺ちょっとこれからバイトなんだよ。あとはよろしくなハル」 「はっ? おい、浩太……」 「まあまあまあ。座って座って」  俺が到着してから五分と経たずに浩太は椅子から腰を上げた。俺が思わず立ち上がろうとすれば肩をパンパンと叩いてくる。コーヒー代は持つからと言って伝票だけかっさらうと逃げるようにして去っていった。  置いていかれた間抜けな俺。目の前には小柄な女の子。  ミキちゃんだ。浩太の友達だとか言う。顔面偏差値が高いとかなんとか前にあいつが騒いでいた女子。 「…………」 「…………」  気まずい。ここにはいない浩太への恨みを心の中で吐き捨てた。  騙された。仕組まれていた。ミキちゃんは恥ずかしそうに俯きながらも時折チラチラこっちを見てくる。
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