好きな人

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*** 「ねえハルくん、まだ怒ってる?」 「うるせえ。話しかけてくんな」 「そんなこと言うなよー。友達じゃん」 「人を平気で騙すような奴を俺は友達として認めない」 「だからごめんってばぁ」  週明け月曜。俺を女に売った浩太は朝からひたすらしつこかった。  夕べから立て続けに送りつけてきたライン全てにシカトを決め込んでいたせいだろう。今日になって大学で顔を合わせるや否や人のご機嫌伺いをしてきたこいつ。ごめんだとかもうしないだとか謙虚に謝ってはくるものの、昨日の気まずい十数分間は俺にとってまあまあトラウマになった。  昼の食堂はガヤガヤとうるさい。けれど今の俺にはコイツの言葉以上に耳障りなものなんてない。勝手に人の目の前で腰を下ろし、勝手に昼を一緒にとり始め、勝手に延々謝り通している。そしてその口振りは軽い。本気で悪いと思っている奴の態度には見えなかった。 「お前とはもう口も利きたくない」 「え、そこまで?」 「あの店には二度と行けねえよ」 「ハルくん元々カフェとかそんなに行かないでしょ」 「…………」  ギロッと睨みつけたらさすがの浩太も空気を読んだ。すぐさま愛想笑いでごまかして、ごめんごめんと気安く言った。  あのあと昨日の俺が取った行動は極めて簡潔。告白を断った。それだけだ。そしてその次にはどうなったか。  結果もごくごく単純なもので、俺の返答を受けたミキちゃんはその場でポロポロ泣き出した。広くはない店の中だ。周りの客、主に女性客からチクチクと浴びせられる視線はこの上なく身に堪えた。
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