好きな人

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 手酷く振った自覚はある。女の子相手にもう少し優しくできないのかと言われれば確かにそう。けれどズルズルと曖昧な態度を取るのもかえって失礼だろう。俺の気持ちは最初から決まっていて、あの子には絶対に応えられない。 「なあハル……」 「うるせえ」 「頼むから機嫌直せって」 「黙れ」 「いっこだけ聞きたいんだけどさ」 「しつけえよ」 「好きな子いるってホント?」  そこで止まった。顔を上げると浩太と目が合う。興味津々にこっちを眺め、ズケズケと聞いてくる。 「水クセェじゃん」 「……うるさい」  あの子から聞いたのだろう。揃いも揃って人のことをペラペラと。  ミキちゃんはさすが浩太の友達と言うべきか、昨日のあのカフェで起きた出来事はこいつにも筒抜けになっているようだ。 「どんな子?」 「……別に」 「かわいい? ってか、ここの大学の子?」 「…………」 「そういう子がいるなら早く言えよ。そしたら俺だって無理やり会わせたりしなかった」  開き直った浩太はただただうるさい。名前はとか紹介しろとか、しつこく延々迫ってくる。 「あ、じゃあさ年は? 同期?」 「…………」  もう嫌だ。限界だ。  イラッとしたついでに一人立ち上がり、昼食のトレーも持ち上げた。 「お前に話す事なんて何もない」 「えっ、ちょ、ハル!」 「うるせえ」  一度浩太を睨み下げた。付いて来るなと釘をさす。俺を呼ぶ声は耳に入ったが、振り向かずにそのまま歩いた。
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