好きな人

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***  その日の晩のことだ。夕食の支度をしていたらインターフォンが鳴った。  玄関の覗き穴を確認する習慣がない事を悔やんでももう遅い。てっきり瀬名さんかと思ったが、そこにいたのはミキちゃんだった。 「浩太にここの住所、教えてもらって……」 「……そう」  あいつそろそろ思い知らせる。  少しいいかなと言われた。話がしたいと。本当はあんまりよくないのだけど無理だと言っても引き下がらないだろう。  とは言え一人暮らしの男の部屋だ。そんな場所に女の子を軽々しく招き入れるのもなんだし、ミキちゃんを部屋に入れる代わりに俺が玄関の外に出た。  まさかこうなるとは。昨日はあれだけ泣いていたのに。自分をフッた男の顔なんて普通なら見たくもないんじゃないのか。  この子は俺を責めに来たわけではなかった。昨日はごめんと言ってきた。そんな子を問答無用で追い返せるほど鬼じゃない。  俺の肩くらいまでしか頭の位置が届かないような女の子。その小さな顔を見下ろし、どうしたものかとまたもや困る。  もうすでに八時を少し過ぎている。瀬名さんがいつも帰ってくるのは今頃。だからもたもたしていたくない。
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