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「可哀想だけど断るしかなかった。でもそのせいですげえ泣かれちゃって、その時はそれで終わったんですけど……。これで諦めるからって、さっき急に……抱きつかれたので」
「…………」
「女の子だし、突き飛ばす訳にもいかねえし……」
向こうは見るからに非力な女の子。こっちは小さくもか弱くもない男。
力いっぱいに振り払う事はできない。俺にもそれくらいの配慮はできた。その結果、ああなった。
「それだけです。あの子とはほんとになんでもありません」
世間一般の常識を踏まえた配慮をしただけ。そうである事を瀬名さんに伝えた。
しかしこの人はここまで話してもいまだ表情がどこか硬い。だからもう一つ、付け足した。
「嬉しくなかったんです。告白されても」
「……そう言って泣かせたのか」
「俺もそこまで無神経じゃありませんよ」
心の中で思った事を全部言うほど馬鹿ではない。それでは女の子の恨みを自らすすんで買いに行くようなものだ。
だがどちらにせよ俺は泣かせた。女子に泣かれると男の大半は情けなくオロオロしだすし俺も実際そうなったけど、あの子の前で言ったことに真実以外は一つもない。すぐ隣に瀬名さんを感じながら、自分の手の中にあるマグカップの赤茶色を見つめ落とした。
「そこまでは言いませんでしたけど……余計な事は言ったかもしれません」
「余計なこと……?」
「……好きな相手が、いるからって」
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