好きな人

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 あの子にそんな事を言うつもりはなかった。断りの一言で終わりにできればそれが一番いい展開だった。ところが最初はあれだけ緊張して顔を赤らめていたミキちゃんは、浩太の友達と言うだけあってなかなかに我が強かった。  ごめんと言ったらなんでと聞かれた。理由くらいは教えてと言われた。だから仕方なく理由を告げた。すると今度はどんな人かと半ば責めるように食い下がってくるから、頭に思い浮かぶその通りのことをあの子に向けて言って聞かせた。  大人で落ち着いていて俺のことを分かってくれる人。とても優しいけれど時々予想外の行動に出ることがある人。  だから一緒にいて飽きない。なんでも話したくなるしどんな事でも聞きたくなる。そばにいたいと思える人だ。その人以外は、無理だと答えた。  それが俺の答えだった。自分でも驚くほどスラスラと話していた。そしてその答えを告げた後、あの子は急に泣き出した。  そこまでが昨日起こった出来事の一部始終。でもその全てをこの人には教えられない。  好きな人がいる。あの子に向けてそう告げた、その事実だけを打ち明けた。誰とは言ってないし言うつもりもない。そこまで聞いた瀬名さんは黙ったままだ。
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