好きな人

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 反応が気になる。顔を上げ、隣の瀬名さんにこっそりと目を向けた。この人は静かに俺を見ていた。それを俺も見返した。 「一応聞くが」 「……はい」 「それは俺の失恋が確定したって事か」  一瞬の間ができる。二秒後には思いっきり顔をしかめていた。  耳を疑う。だってこの人、今なんて言った。 「……は?」 「そういう事だろ」 「待ってください。なんでそうなるんですか」 「違うのか」  聞き返されて混乱する。この男はあれか。寝ぼけてんのか。 「……それを本気で言ってるならブン殴りますよ」  瀬名さんはどう考えても察しが良すぎるくらいの大人だ。こんなチンプンカンプンな人じゃない。それだと言うのに全くもって見当違いな答えになって戻ってきた。  失恋ってなんだ。バカじゃねえのか。この人は絶対にちゃんと分かっている。これで分からないはずがない。 「なんで今ふざけるんですか」 「ふざけてねえよ。好きだと思う相手がいるんだろ」 「だからそれは……」  そこで詰まった。ふざけているなら本当に殴りたいが生憎瀬名さんの表情は真面目そのもの。茶化す風でもなく真っ向からこっちを見てくる。
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