好きな人

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 ふざけんなと言ってやりたい。でもそう言える雰囲気とはどこか違った。だから止む無く、遠回しに言葉を変えた。 「俺は……なんとも思ってないような人に言い訳なんてしないです」  言い訳をしたかったのには理由がある。俺にとっては大きな理由だ。 「あんただから……」  結局はここまで言わされた。元々消え入りそうだった声は最後の方はほぼ消えていた。それでも隣にいたこの人にはきちんと聞こえただろう。聞こえたはずなのに返事はない。  なんか言え。なんか言えよ。さっさとなんとか言えばいいだろ。  いつもは余計なことばかりペラペラと喋るくせに瀬名さんはなぜか黙った。沈黙の中で俺を見つめ、自分から喋る訳でもないのに視線だけは外してくれない。 「意味……分かりませんか」 「分からねえな」  きっぱりと。あまりにもはっきりした断言だったから殴っておけばよかったと後悔した。  最低だこの男。ここで嘘をつくな嘘を。 「……今ので分からないとは言わせませんよ」 「分からない」 「…………」  確定した。瀬名さんのコレは完全に黒だ。真っ黒だった。間違いなく全部分かっている。
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