好きな人

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「やっぱふざけてますよね」 「ふざけてない」 「ふざけてない人がこれで分かんねえとかあり得ないでしょ」 「メンタルが弱いと前にも言っただろ。確信を持てる程の自信は俺にもない」  そう言われて口を閉じた。俺は瀬名さんだったからこんなしょうもない言い訳をして、その意味が分からないという瀬名さんには自信がないらしい。  自信がないから分からない。分かっているのだろうけれど、分からないってこの人は言う。 「……ずるいんですよアンタは、ほんとに」  どこまで人を翻弄すれば気が済むのか。これ以上はもうたくさんだ。普段の俺ならしないような事をさっきからずっとしている。  俺がこんな滑稽に見えるのはやっぱり相手が瀬名さんだからで、俺から目を離そうとしないこの人はようやく自分から動いた。 「一度だけ試してみてもいいか。確信に変わるかどうか」  視界の端っこでそっと捉えたのはラグに付かれた瀬名さんの手。男の人の手だ。当然だ。それが俺の近くにあって、瀬名さんの顔も近くに来る。
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