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瀬名さんが試してみたいこと。確信に変えるための何か。それをぼんやり理解して、分かっていながら拒否しなかった。
これがどういう意味の行動か知っている。知っているのに顔は背けない。じっとしていたら額にそっと、触れられた。唇で。
髪の上からごくごく軽く。分からない程度に触れただけ。それだけで瀬名さんは唇を離し、それでもまだ近い距離から俺の事を静かに見ている。
「逃げないんだな」
「……逃げる必要、ないので」
視線が絡む。再び距離が縮まったけど逃げる必要はやはりなかった。
それで今度は、ほっぺたにちゅっと。掠めるくらいに触れてくる。
「嫌か」
「……いいえ」
子供がするようなそれ。ここでも瀬名さんが俺に示したのは逃げ道だった。そうと気付いた。
この人とこれ以上目を合わせている事ができない。与えられた逃げ道を思い、とうとう視線をふっと落とした。
「……確信、できましたか」
「さあ。どうだろうな」
「…………」
瀬名さんが俺に触れていたのはそこまで。そこから先は何もなかった。この人はすぐに姿勢を戻した。
これ以上はもう何もされない。何を聞いてくる事もない。言ってやりたい事は山ほどあったが、口に出してぶつけてやれるだけの余裕はさっぱり残ってなかった。
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