腑に落ちないキス

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*** 「こんな所で良かったのか」 「ええ。軽く食いたかっただけなので」  目指したのはマンションの近くにあるファミレスだ。遅くまでやっている店で居酒屋以外となるとここくらいしか近場になかった。安くて早くてそれなりに美味いから俺にとっては申し分ない。  オーダーからそう時間もかからずやってきた良くある料理。俺はミートソースパスタ。瀬名さんはキノコ雑炊。注文の時にも思ったけれど瀬名さんが意外とヘルシー志向だ。 「ダイエット中の女子みたいですね」 「三十代の胃袋ってのはこういうもんだ」 「いつも俺が何作ったって残さず食うじゃないですか」 「お前のメシなら問題ない」  なんだそれ。顔をしかめたら笑われた。  普段から丁寧な所作で食事をする男はファミレスごときのメシが相手でもどうしたって丁寧だ。話す事だって家にいる時と同じよう。今日は何があったとか、明日の帰りは何時になりそうだとか。  内容はほぼほぼ報告連絡。なのになぜか雰囲気は和やか。パスタをフォークにクルクル巻き付けているうちに時間はゆっくり進む。瀬名さんも女子のダイエットメニューを着々と減らしていった。
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