腑に落ちないキス

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 いかにも仕事後のサラリーマンといった感じのこの人と、どこにでも転がっていそうな大学生って感じの俺と。俺達は周りから見てどんなふうに映るだろう。本来だったら接点なんてあるはずのなかった瀬名さんと、毎日一緒にメシを食って、今日はとうとう外に出てきた。 「気が向いたと言ったな」 「ええ」 「どうして急に気を向かせたんだ」  向いた、じゃない。向かせたと、瀬名さんは言う。  その通りだ。見抜かれている。俺は自分で気を向かせた。 「なんででしょうね」 「俺が聞いてる」 「どうせ分かってて聞いてんでしょ」  晩飯をタカッた理由は絶対にバレている。時々意地悪になるこの男はいちいち俺に言わせたがる。  言うものか。言ったら負けだ。ここまできたらもう我慢比べだ。  いつだってこの大人には余裕ばかり溢れている。今夜はこっちから仕掛けに行ったのに瀬名さんのペースに飲み込まれている。
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