腑に落ちないキス

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 レンゲをいったん手放した瀬名さんがそっと腕を伸ばしてきた。行き着いたのは俺の左手。パスタの皿へと添えた手に、握りしめる程ではなくて、撫でるのと掠めるのとの間くらいで触れてくる。 「年上の男を期待させると後で自分に返ってくるぞ」  わざわざ怖がらせるみたいなことを。冗談と分かる雰囲気で。 「……返ってくるって、何が」 「何がだろうな」 「聞いたのはこっちですよ」 「分かってて聞いてんだろ」  腹立つ。イラッとしたついでにその手はぱしっと払いのけた。 「なんで晩メシ誘ったんだか本気で分かんなくなってきました」 「そのくらいの方がお前らしいな」 「やっぱ俺あなたのこと嫌いです」 「それもお前らしくていい」  口を閉じてムスッとしてみればこの人はやっぱり笑う。フォークに巻き付け過ぎたパスタを一口で思いきり頬張ってみたら余計に笑われる事になった。
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