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二人で一緒に俺の部屋に帰った。綺麗で美味いケーキも食った。ベッドの前に並んで座っている今は、いつもだったらもうすぐ終わる。
紅茶でもコーヒーでも緑茶でもなんでも、カップの中身が空になれば必ず二杯目を俺は淹れる。なんのためかと言ったらそれは、ただただ瀬名さんを引き止めるため。
この人はこれ以上こっちに来ない。それは物理的な話だ。俺に逃げ道を作らせているようで、実際の逃げ場は封じられていた。
「俺も何かお礼しないと」
それを言ったのはテーブルの上に瀬名さんがマグカップを置いた時。瀬名さんの顔はこっちに向いた。俺はちょっと、目を逸らした。
「最近しょっちゅうメシ連れてってもらってるし」
「俺もずっとお前に弁当もらってる」
「足りませんよ。そんなんじゃ」
足りていてもいなくてもそんな事はもはや関係ない。ちゃんと見返りを求めてほしい。俺はこの人にそう思ってる。
「何か言ってください。なんでもいいんで。俺にできる事ならなんでもします」
前は何を言われても首を横に振り続けた。俺が何度拒否しようとも瀬名さんは構わず押してきた。
それなのに俺が受け入れようとすれば、途端にこの人はまともな大人ぶる。
「なんでもするなんて軽々しく言うもんじゃねえ。自分を狙ってる男が目の前にいる時は特にな」
「……どうなるんですか。軽々しく言うと」
「分かるだろ」
「分かんないです」
俺に駆け引きは向いていない。この人が相手だと余計にそうだ。
「あなたが教えてください」
どうなるんだかやってみればいい。脅すくらいならやればいいんだ。どうせ口だけなんだから。
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