食後のデザート

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 壁に掛けてある安い時計は秒針を刻む音が常に目立つ。神経質な方ではないから寝る時でさえ気にならない。けれど今はとても気になる。カチカチカチカチとうるさくて、背後からその音に追い立てられた。  瀬名さんと時計の音に挟まれている。形勢逆転は不可能だ。そう理解して、諦めた。 「…………もういいです」  したくもない拒否をし続けるのは、そろそろ俺が限界だ。 「俺の負けです。好きですよ、あなたが。どうせ全部分かってんでしょ」  ものすごく、悔しいけど。好きなんだから仕方がない。 「惚れさせたからには……責任くらい取ってください」  あれだけ惚れないと言ってきた。なのに結局こうなった。  それだと言うのにこの大人は、どこまでも人を弄ぶ。 「責任?」 「……はい」 「なんの」 「……はい?」 「なんの責任だかよく聞こえなかったからもう一回言ってみろ」  ピシリと固まる。顔は強張る。ビックリするほどの上から目線で堂々と命令された。 「……は?」 「悪いがなんとも答えようがない。なにせ聞こえなかったからな」 「…………」  よくもまあ抜け抜けと。真顔なのが余計にムカつく。 「……あんたクズだな」 「そのクズにお前はなんと言ったんだ」 「知らない」 「聞こえなかった」 「聞いてなかったアンタが悪い」 「聞いてはいたが聞こえなかった。次は聞き逃さねえからもう一度言ってくれ」 「言いません」 「聞きたい」 「嫌です」 「言えよ」 「しつこ…」  グイッと肩を引き寄せられた。言葉が途切れ、同時に口が塞がれている。  頬ではない。額でもない。初めてこの人と、重なった。
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