食後のデザート

9/11
前へ
/1402ページ
次へ
 スマホの写真の日付表示はスライドしたのち二秒か三秒くらいで消える。自分の写真が保存されているとはまさか思っていなかった人がそれを目にしたその瞬間に日付の確認まではできない。だからあの時瀬名さんが知ったのは写真を撮られたという事実だけだろう。その撮影日がいつなのか、知っているのは俺だけだ。  それを俺に吐かせようとしている。意思の強そうな瀬名さんの視線が異常なほど鋭く突き刺さる。しばらくは無言の攻防を続けたが、所詮は蛇とカエルの関係。最終的に俺はまた負かされた。 「……五月の……始め、くらい……だったかと……」  そんな曖昧な記憶ではない。確実にそうだ。もっと正確に言うのであれば五月の一日。涼しくなるよりも更にもっとずっと前の、そもそも夏だって来ていなかった時季。 「……五月?」 「…………五月です」 「…………」  瀬名さんは分かりやすく意外そうな顔をした。こういう反応が目に見えたから撮影日は知られたくなかった。  かなり前だ。初対面で食事に誘われ、一ヵ月ほど過ぎた頃。瀬名さんは毎日俺に貢いで、俺は瀬名さんを邪険にしていて。そんな関係だったあの時にはもう、うっかり盗撮しちゃうくらいにはこの人に興味を持っていた。  最初からだった。それが真実。変な人だけど気になった。それでたまたま隙だらけだった瀬名さんを見かけたあの夜、エレベーターが設置されているスペースの物陰にコソコソ隠れ込んで横顔が写るように写真を撮った。それをスマホから消せもしないで今でもちゃっかり残してる。  前からずっと好きでしたなんてたとえ死んでも言いたくない。命を捨ててでも守り抜きたかった真相を暴露させられた。俺がこのあと三階のベランダから飛び降りたらこの人のせいだ。自殺教唆予備軍の瀬名さんは、人の羞恥心なんてお構いなしで俺を強引に抱き寄せた。
/1402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6498人が本棚に入れています
本棚に追加