食後のデザート

10/11
前へ
/1402ページ
次へ
「ちょっ……」  体に外から力が加わる。抱きしめられた。急にだ。いきなり。  服越しに感じるこの人の体格は想像以上にしっかりしている。咄嗟にその肩に手をついていたが、少し押したくらいではビクともしない。 「待っ…」  言い切る前にまたキスされて、むぐっと塞がれ動きも止まる。  あれだけ頑なに、さっきまでは絶対、口にだけはしなかったのに。それが今はされている。これがキス。これ、キスだ。  唇で唇を撫でられる感触。落ち着かない。なんだこれ。  くすぐったい唇の感覚がそこからじわじわ広がっていく。しっかり抱きしめられながら、いつの間にか目は閉じていた。俺の感覚は俺の意思を完全に無視して騒いでいる。ゆっくりとしたこの人のキスを、取りこぼしなく感じ取った。 「……ん」  地味にうるさかったはずの秒針はすっかり耳から遠のいていた。  押し付けるようにして唇を食まれ、重なるどころかそれより深く、入り込まれた。中に。 「っ……」  きゅっと、この人の服を掴んだ。指先に弱く力が入る。舌が触れてる。ちょっとビビる。引けそうになる俺の腰は瀬名さんの腕が押さえ留めた。  舐められて、たまに吸われて、それでやらしい音がした。時計のカチカチした機械音の代わりに湿ったその音が頭に響く。やたら熱いから顔は赤いかも。腰が抜けそう。なんかもう、死にそう。  情けないことになっている。沸騰しそうな状態になりながら瀬名さんの服を頼りなく握りしめた。  唇はゆっくり離れ、はふっと呼吸が漏れていく。頭の中の整理はつかない。凄まじく動揺している。それでも瀬名さんはまたそっと、ついばむようなキスをしてきた。  エサをつつく小鳥みたいなその仕草。瀬名さんのエサにされている俺は、どんどん縮こまっていくばかり。 「ン……ちょ、っと……」  それがあまりにもしつこいもんだから最終的には音を上げた。力の差があるせいで押し退けることはやっぱりできない。せいぜい顔を俯かせるのが限度。
/1402ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6498人が本棚に入れています
本棚に追加