繁忙期の恋人

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 付き合い始めて少し経つと瀬名さんの仕事が忙しくなってきた。毎年この時期にはこうなるらしい。繁忙期に突入した瀬名さんとは一緒に晩メシも食ってない。  だから代わりに昼飯用の弁当を渡す。これがほぼ毎朝の恒例になった。忙しいならわざわざ洗わなくていいと言っているのに、翌朝に返してもらう弁当箱はいつも必ず綺麗になっている。  美味かった。ありがとう。これも絶対に忘れず言われる。その言葉と交換するように、俺はその日の弁当を渡した。  夜の十一時過ぎのこと。風呂から上がって濡れた髪をタオルでワシャワシャしていたその時、こんな夜更けにもかかわらずインターフォンが鳴らされた。  玄関に足を向けて扉をガチャリと開けてみれば、やはりと言うべきかそこにいたのはスーツ姿の瀬名さんだ。 「ただいまハニー」 「とうとう挨拶まで図々しくなりましたね」  非常識な時間帯に堂々とウチを訪ねてくるのはこの男しかいないだろう。ドアを押さえながら中に招き入れた。
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