繁忙期の恋人

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「濡れますよ」 「ん」  軽く頷いただけで瀬名さんは離れない。体重をかけるようにして抱きつかれた。 「どうしました?」 「若い恋人が女子にいちいちクソモテるせいで俺の心配は日々絶えない」 「ハーブティーもらっただけですってば。ただのバイト仲間ですよ」 「ただのバイト仲間にそんな物を寄越すと思うか」  寄越すんじゃねえのかな、現にこうしてくれたんだから。コンロの火を強くしながら首を傾げたら溜め息をつかれた。 「鈍いのも大概にしろ」 「なにが」 「こっちは気が気じゃねえ」 「だから何が」  マグカップにティーバッグを一つずつ落としてお湯が沸くのを待った。その間も瀬名さんは俺を放さない。  ぎゅうっとくっついてくるからちょっとだけ鬱陶しい。ついでとでも言わんばかりにうなじにキスされてぞわぞわした。 「身動き取りづらいんですけど」 「よそに振りまく愛嬌はあって恋人の俺にはその態度か」 「誰にもそんなもん振りまきません」  肘で押しやったら腹の前から腕が離れていく。ところが今度は首にかけたタオルを取られ、後ろから髪をワシャワシャと。 「……なんなんですか」 「構いたい」 「構わなくていいからもう、邪魔」 「邪魔とはなんだ」  勝手に人の髪を乾かす瀬名さんには無視を決め込む。お湯が沸騰してきたところで火を止めたものの、頭を揺らされているとやりづらい。
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