デート

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 瀬名さんが帰ってくるのはここの所いつも深夜間際だった。日付が変わるよりも少し手前ごろ。  公休は土日祝日。いつもの帰宅はだいたい二十時前後。しかし繁忙期になると朝から遅くまで働いて、休日出勤もやむを得ない状況になるようだ。そのため今日はこの人にとって久々の休みになるはずだった。  その休日に俺の存在がある。一緒にいて邪魔にならないか。そんな事を聞いてみれば、迷いもせずにこの人は答えた。 「邪魔な訳がねえ」  朝から俺を外に連れ出した瀬名さんは駅前のレンタルショップで車を借りた。目に映っているのはハンドルを握るこの人の横顔。  新鮮だ。さすが黙ってりゃいい男なだけあって運転姿も様になる。 「俺がいたら休めないのでは?」 「お前といるから休めるんだろ」 「たまの休日くらい家の中でゴロゴロさせろってのが世のお父さん方の常套句なのに」 「お前そんなに俺と結婚したいのか」 「はあ?」  飛んできたのは悪い冗談。しかめた顔も元に戻らない。 「何をどうすればその結論に辿り着くんですか」  前の信号は青から黄色へと色を変えた。それに従い車は緩やかにスピードを落とし、同時に瀬名さんの目が俺に向く。 「俺がお父さんならお前はお母さんだろ」 「謎すぎるんですけどあなたの理屈」 「子供の数は三人な」 「たまには人の話聞いてくださいよ」 「理想は上から男男女だ」 「将来設計が細かすぎます」  瀬名さんがすごく笑顔だ。機嫌がいいそのついでに左腕をこっちに伸ばしてくる。  さり気ない動作でそっと、太ももの上に手を置かれた。
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