デート

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 俺の動揺をよそに車は真っ直ぐ走っていく。目的地は水族館。少し前に生まれたカワウソの子供が公開されたらしい。  夜になってやって来た瀬名さんにスマホで見かけただけの情報を何気なく聞かせていた俺が、カワウソなんて生で見た事ないと漏らしたのがこうなったきっかけだ。  じゃあ見に行くか。隣にいたこの人はすぐに、そう言って俺を誘った。 「ガキ扱いに不満のあるお前にちょっとした朗報をくれてやる」 「……なんです?」  外の景色を眺めていれば瀬名さんからはそんな言葉が。朗報とはいい知らせの事だ。けれども嫌な予感しかしない。 「このまま真っ直ぐ走ってりゃ目的の水族館にはあと二十分くらいで着く」 「……そうですか」 「ただしそれはあくまで予定だ。次の信号を右に曲がって裏道に入ってから五分ほど進めば、お前はとうとう大人の階段を上る事になるかもしれない」 「……は?」  訝しく瀬名さんの横顔を窺う。免許を持っていない俺はこの辺りにも土地勘がない。  何が言いたい。普段の行いがあんな感じだから警戒しながら身構える。この人の薄い唇は、ほんの少しだけ吊り上げられた。 「ホテルがある」 「真っ直ぐでいいです」  最低だほんとにこの男。全然朗報なんかじゃなかった。 「秒速の拒否が男のハートをどれだけエグるかお前知ってるか」 「ふざけてるだけだろアンタ。だいたい俺は今日カワウソを見に来たんです。水族館にしか興味ありません」 「ご立派にガキじゃねえかよ」 「うるさいな」  瀬名さんが言った信号はすぐに目の前にやって来たが、ウインカーが右折を示す事はなくそのまま進路を変えずに進んだ。  こうやって俺をおもちゃにして遊ぶ。良く分かっている。どうせおもちゃだ。人の事を飽きもせずにおちょくっては楽しんでいる。  ガキ扱いに腹が立つ一方でホッとしたのも秘かな事実。瀬名さんは涼しい顔をしながらハンドルを握っている。  ホテルの場所に詳しい理由は、あえて聞かないことにした。
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