デート

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 日曜日の水族館はどのブースも盛況だ。施設内に戻ってきて暗い通路をゆっくり歩き、両サイドを囲む水槽を目移りしつつあれこれ眺める。  大きな水族館なだけあって水生生物の種類は豊富。タツノオトシゴはずっとゆらゆらしている。間抜けな顔でゆらゆら移動している魚はアオビクニンとか言うらしい。カラージェリーフィッシュなんて大層な名前が付けられたクラゲはその名のとおりカラフルで綺麗だ。そしてやはりゆらゆらしている。だいたい皆ゆらゆらしていた。  アホみたいな見てくれの魚も厳つい面構えの生物も、横に付いているパネルを見ないとその名前が分からない。どっちに行くにもずっと集団で動いている小魚の中には、時折一匹だけ進路を間違えて仲間からはぐれるドジもいる。元から一匹で動き回っているデカい魚は頭のコブが邪魔そうだった。  考えてみれば水族館には子供の頃に来て以来だ。物珍しさに至る所でキョロキョロしながら進んでいくと、スーパーやなんかでしょっちゅう出会える馴染み深い奴らを見かけた。  タコとかエビとかマグロとか。 「ここら辺ちょっと寿司ネタが多い」  思ったままを口に出したら瀬名さんがちらりと振り返った。 「水族館に来て言う感想がそれか」 「カワウソは可愛かったです」 「分かった、マンボウ見に行くぞ。あれを寿司だとは思えねえだろ」  くいっと腕を引かれてマンボウの展示スペースへ。当たり前のように繋がった手はそのまま離れていく事がなかった。水槽の照明は明るいけれど、室内の明りは落としてあるため俺達の距離には誰も気づかない。  瀬名さんはこういう人だ。いつもの何気ない動作一つで俺を黙らせ、そして静かに動揺させる。その動揺はきっとバレてる。バレているのを知っていても、俺は知らん顔を貫き通した。 「……そういや前に何かで聞いたんですけど、マンボウって実は食えるらしいですよ」 「お前に情緒ってもんはねえのか」  悪口らしきことは言われたけれど手だけは絶対に離れない。  大きな水槽を見上げながら観察したマンボウは、特に美味そうな感じではなかった。
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