デート

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 ラッコだとかペンギンだとかの可愛いゾーンはさすがの人気。順路に沿って展示してある奇妙な見てくれの魚たちには浴びせられない明るい歓声が至る所から投げられていた。  どんな生き物も見た目は大事だ。生まれ持った宿命の切なさを実感しながらひと通り見て回り、人の列が開けたそこはお土産ショップになっている。これだけ大きな水族館は客の誘導の仕方もうまい。店の戦略に大いに乗っかって俺達もその中に入っていった。  この手の店の定番通りに商品がずらりと並べられている。お菓子に雑貨に変な被り物に、用途不明のよく分からない水族館グッズも多数。見て回るだけでもまあまあ飽きない。けれどふと後ろに顔を向けたら、神妙な面持ちをした瀬名さんがあり得ない物を吟味していた。 「……まさかそれ買う気じゃありませんよね」 「そのまさかだ。お前の部屋にカワウソを飾る」 「やめてください」  瀬名さんの目の前にあるのはカワウソのぬいぐるみだった。それもただのぬいぐるみじゃない。おそらくこの店の中にある中で一番サイズがデカいと思われる。  なんで俺の部屋に飾ること前提でそんなもん選んでんだこの男は。 「言っときますけどいりませんよ」 「さっきまでカワウソ見てはしゃいでただろ」 「そこまではしゃいでないです」 「まあ遠慮するな」  してない。 「お前のベッドを占領してるクマにもそろそろ友達を作ってやれ」 「そのクマ持ってきたのもあんただろ。あれホントに邪魔なんですよ」  置き場所に困るクマ一匹だけでも手に余っている。これ以上仲間を増やされたらたまったもんじゃない。  だけどこの人はぬいぐるみコーナーでの物色をやめなかった。いい年をしたいい男が可愛いカワウソをいちいち抱き上げ、その都度じっくり時間をかけて真剣に見つめるその光景。異様だ。 「ちょっと……」 「ワンサイズ下がいた。小さけりゃお前も文句ねえだろ」 「いや、デカいし。いらないし」  さっきのより一回り小さいカワウソのぬいぐるみを掴み上げた瀬名さんは自信満々。くったり仕様でヤル気のないそいつを俺に向けて突き付けてくる。これがベッドにいたら物凄く邪魔だ。 「何がなんでもカワウソ投下したいんですね」 「お前のベッド周辺を少しずつ着実にファンシーグッズで満たしていく作戦だからな」 「作戦の中身言っちゃったらそれもう作戦じゃないですよ。つーかなんで増やすんですか」 「俺が愉快になれる」  ただの嫌がらせじゃねえか。押し付けられたカワウソは元いた棚に返してやった。 「気に入らねえのか」 「気に入りません。ぬいぐるみはもう一匹もいらないんでそれよりクッキー買ってください」 「俺にタカるときの躊躇がいつの間にか消えたよなお前」 「開き直ってないとやってらんねえし」  瀬名さんの腕をグイグイ引っ張ってぬいぐるみコーナーから遠ざけた。移動先はお菓子やなんかが並んでいる棚の前。お世辞にもコスパがいいとはあんまり言えないスペースだ。  可愛い焼印がされているクッキーも水生動物形のサブレもこの手の店では定番だろう。ラインナップ豊富なお菓子を目移りしながら選ぶ俺に瀬名さんもゆっくりついてくる。 「どれがいいんだ」 「んー……これ。カツオノエボシクッキー」  うっかり触ると危険だという謎の生物。俺が手に取ったその箱を見て瀬名さんは分かりやすく顔をしかめた。 「……お前の好みこそどうかと思うぞ」 「だってこれフレーバーがチョコレート味カツオノエボシ風ってなってるんですよ。どんなのか気になるじゃないですか」 「普通にチョコクッキーだろ。カツオノエボシの何かが混ざってたら狂気だ」 「じゃあ狂気ついでにリュウグウノツカイパイも買っていいですか」 「ニッチな商売してんなこの店」  リュウグウノツカイは時々浜に打ち上げられる事があるらしいデカい生き物だ。パイのパッケージを見た瀬名さんは更に渋い顔になった。 「もっとまともなの探せ。こっちにイルカクッキーあるぞ」 「うーん……」 「ならこれは。ペンギンまんじゅう」 「あー……」 「何が不満だよ」 「普通すぎてつまんない」 「顔に出てねえだけでお前のテンションが珍しく高い事は分かった」  なんだかんだで水族館は楽しい。
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