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あの人は毎晩のように、俺の部屋へとやって来る。
「よう」
「……どうも」
「ケーキ食わねえか」
「食いません」
「駅前にできた店のだから美味いと思う。食ってくれ」
「いえ、結構です」
「まあいいから食え」
グイッと押し付けられた白い箱。強引にそれを持たされ、玄関の外側に立っているその人を鬱陶しい気分で眺めた。
マンションのインターフォンが鳴らされたのはついさっき。午後八時を少し回った頃だった。
うんざりした。気も重かった。インターフォンを鳴らしたのが誰であるかは分かっていたから。
宅配が届く予定はない。友達を呼んでいる訳でもない。
おそらく、と言うか間違いなく、ドアの向こうにいるその人は隣の部屋のサラリーマン。
そこまで理解していながら自分で玄関のドアを開けた。いい加減こちらも慣れっこだ。案の定と言うべきか、ドアの向こうに立っていたのは隣の部屋の住人だった。
見た目はマジメそうな人だ。平日はいつもスーツを着込んで、ネクタイも必ず締めている。
身形のしっかりとした大人の男。とてもちゃんとした人に見える。中身はとんでもなかったが。
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