男同士のセンシティブな問題

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***  湿度の高い小さな空間でバシャバシャとうるさく流れ続ける。  上から落ちてくるシャワーのお湯に頭から打たれつつ、足元に一度落とした視線はなかなか上がりそうになかった。 「……はぁ……」  辛気臭ぇ。自分がだ。ついてしまった溜め息に気づいて虚しさとともに口を閉じた。  ここは瀬名さんちの風呂場。あれだけ提案を断っていたのに結局はまたこうして風呂を借りている。だるまさんの脅しがあったあの翌日から毎晩だ。  どうしてこういう状況になったか。水場に集まってくるかもしれない魑魅魍魎が怖かったのもある。だがそれ以上にあの男は俺の操作が上手かった。  落ち着かない気分でバタバタしながら風呂に入るのは疲れるだろ。そんな状態になってる恋人を放っておくことができると思うか。俺が安全を保証してやるとついこの前に誓ったじゃねえか。身の安全の保証ってのは安心できる環境の保全も含む。苦痛に耐えていると知ったからにはなんとかするのが俺の役目だ。日々痛みに晒されているお前の眼球も守りぬきたい。それにここの風呂を使えばお前にはもう一つメリットが生まれる。自分とこの風呂を使わなくなればな、水道光熱費が浮くぞ。  ペラペラと良く回る口にはいつも以上に感心させられた。  くどくどくどくどと受けたプレゼンの最後の一言が決め手だった。  何せ貧乏学生だ。生活費の負担軽減という耳寄りな誘いには抗えない。  自分で思っていたよりも俺は人としてチョロかったようで、あっさりコントロールされてその結果眼球も守られている。  いたずらに怖がらせてくるクズ野郎行為と水道光熱費のささやきによってとうとう折れてしまったその日、ふわふわラテ系スイーツ女子には絶対になりたくないから自分ちのシャンプーを持参した。  所詮は悪足掻きだ。自覚はあった。それでも小さなボトルにシャンプーを詰めて隣の部屋に持ち込んだ。  俺が持ってきた物を目にした瀬名さんは、どうやら相当面白かったようで。 「今度は何を持ってきた」 「……シャンプー」 「女子かよ」 「いいじゃん別に」 「次は化粧水持ってくるんだろ?」  意地悪く小バカにされた。すげえムカつくけど何も言えなかった。  人を鼻で笑いながらひとしきりからかって遊んだのちに、嫌な奴なのかいい人なのかさっぱり分からないあの男は言った。  もしもシャンプーにこだわりを持っているならウチにあるのを一式買い替える。  シャンプーにもリンスにもボディソープにもこだわりなんてものはない。この人と同じのを使いたくないから三個入り百円のチープなボトルをわざわざ百均で買ってきたのに、そんなことをされたら本末転倒。ふわふわラテ系の脅威が迫る。  絶対に変えるんじゃねえ。食い気味に詰め寄ったのもやむを得ない。  シャンプー変える気満々だった大人は、不思議そうな顔をして俺を見ていた。  とにかくそういう経緯があった。頭を洗っている最中に目をつぶれるようになったのはいいが、細かいお湯に打たれながらまたしてもついてしまったのは溜め息。  昼間の学食で知ってしまった衝撃の事実が頭から離れない。ダルい投資対象。カモり行為。何かと俺にも当てはまった。  瀬名さんはどう思っているんだろう。毎日のように押し倒されるけど無理強いだけはしてこない。俺が本気で力を込めて胸板に手をつき返せば、それだけでやめるのを知っている。上がるのはキスの経験値だけでその他は散々甘やかされている。  ダルいかな。そりゃダルいよな。いくら貢いでもヤレねえんだもん。男のくせに何をいつまでも守ってんだって感じだろう。
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