男同士のセンシティブな問題

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 俺が全然寒くないのも、室温上げたら八つ裂き予告も、それらの真意をしっかり受け止めて瀬名さんはこの体を抱きしめる。  どういうつもりで、こうするんだろう。こんなのを抱きしめて楽しいのかな。  男に生まれて後悔したことなんて今も昔も一度もないけど、もしも俺が女だったら、状況は何かが違っただろうか。  瀬名さんが普段俺を見る時、その視線はやや下がる。この人が高身長なだけで俺だって別に小さい訳じゃない。背の高さだけで比べるならば、瀬名さんより十センチくらい低い程度だ。  デカい男を毎晩二人も乗っけている憐れなシングルベッドが、小さくキシッと音を鳴らせた。そこそこ目立つサイズのクマとカワウソも一緒にいるから定員はオーバー気味だろう。 「……瀬名さん」 「ああ」 「…………ヤレないのってダルいですか」 「ああ?」  満員のベッドで一人グチグチ考えているのも滑稽だ。朝まで悩み抜いたところでどうせ答えなんか出ねえんだから、いっそ聞いちまった方が早い。  問いかけたのは半ばヤケだった。すると当然と言うべきか、怪訝そうな声を返された。 「どうした……お前今日ずっと変だぞ」  普通にしていたつもりだったのに。この人には隠し事もできない。 「ヤレないのがなんだっつった」 「……拒否ばっかしてくる奴はダルいって友達が今日言ってたんです」 「友達は選んだ方がいいんじゃねえのか」 「……バッグもらうのはカモってる感じになるそうです」 「なんの話だよ。ほんとにどうした」  どうもしない。非道な自分に気づかされただけだ。  そこまで言えずに溜め息で応えたら、背中をまたポンポンされた。 「バッグが欲しいのか?」 「そういう話じゃない」 「今度の土曜は買い物に行こう」 「いらないですからね。やめてくださいよ」 「今の学生にはどういうのが人気なんだ」  人の話全然聞いてない。真面目に言ってくるのも怖い。  極悪人にはなりたくないから本人に直球な質問をしたら、どういう訳かバッグを買いに行く流れになってしまっている。  なんでだ。どうしてこの人わざわざ自分からカモられに来ちゃうんだ。無駄な投資をさせないために恥を忍んで言っているのに、瀬名さんは斜め上を行く。 「他に欲しいものがあるなら先に教えろ。店探しとく」 「いえ、あのですね……」 「昼メシのリクエストもできるだけ早いうちに出せ。予約する」 「ですから……」 「そういやこの前観たい映画があるって言ってたよな。せっかくだからそれも行くか。メシ食う前と後どっちがいい」 「…………」  こんなフルコースの甘やかされ体験をこれまでの人生でしたことがない。瀬名さんに会わなかったら一生経験しないで済んだはず。貢ぐために猛プッシュしてくる人間は世の中にそれ程いない。
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