男同士のセンシティブな問題

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 この人は誰にでもこうなのか。貢ぐのが生き甲斐か何かなのか。こうも全力で投資されても、俺は何も返せないのに。 「こんなに色々されちゃうと困るんですよ……」 「俺がやりたくてやってる」 「……ずいぶん前にも言いましたけど、行き過ぎた親切って絶対に良くない」  付き合う前と何も変わっていない。俺達はずっと同じことをしている。  言われている事にも言っている事にも成長らしきものは見当たらず、それには瀬名さんも同意だったようで、ふふっと面白そうに笑った。 「俺もその時言ったと思うが、親切なんて小綺麗なもんじゃねえよ。これはただの下心だ」 「下心しか持ってない男は即刻見返り求めてきますよ」 「本心では死ぬほどヤリたいと思ってるから安心しろ」  一瞬で安心できなくなった。 「俺は健全な男だ。何も心配ない」 「心配してたのはそこじゃないんですが……」 「それよりもお前は俺の理性にもっと感謝するべきだと思う」 「聞いてよ」 「もしも俺が万年発情期みてえなクソ低俗サル野郎だったら、お前は今頃ボロ雑巾より酷い状態になってるぞ」 「…………」  突然の脅しがえげつない。そしてやっぱり話聞いてくれない。  いいや。違うか。この人はいつもちゃんと聞いている。瀬名さん以上に人の話を上手に聞く男はいないだろう。  真っ当な大人とは言い難いけど、必ず耳を傾けてくれる。俺の言いたい事を言ったこと以上に汲み取って、言葉か、態度か、あるいはその両方を使って返してくれる。  今は、両方のときだった。俺の額に唇で触れてから、至近距離で目を合わせてくる。 「十代のガキどもと一緒にすんじゃねえ。貢ぐ根拠は下心でもな、その前提はもっと他にある」  背中に回された腕でぎゅっとされた。今度はこの目元に軽く口づけ、囁くように低い声で一言。 「お前が大事だ」  大事って。  言われてから最初の三秒くらいは、それをうまく呑み込めない。四秒かその程度経過した頃になって徐々に目を見開いていく。瀬名さんの腕の中で、ポカンと間抜けに固まった。  大事にされているのは知ってる。大事にされた事しかなかった。  だけどそれをそっくりそのままはっきり言葉にされてしまうと、動揺しかやって来ない。近くからブン投げられたレンガが顔面に直撃したくらいのショックだ。なかなかの衝撃を食らってしまってそこからすぐには立ち直れない。 「誰がダルいなんて思うかよ。上等じゃねえか、落とし甲斐がある」  レンガの次は鉄球ぶん投げられた。ダルくはなくて、オトすつもりだそうだ。  可愛くないし女子ですらなくても、瀬名さんは受けて立つっぽい。
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