男同士のセンシティブな問題

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 もぞっとイモムシみたいに動いて近い距離を更にくっつけた。ベッドがまた少し微かに軋む。もし壊れたらちゃんと弁償するから、壊れないうちに抱きついた。 「今度はどうした」 「……キスしたいなと思って」 「俺を惑わせる作戦か」 「違います」  この人もすぐムードぶち壊す。 「そんな作戦立てなくたってだいぶ前からメロメロだ」 「メロメロって言う人久々に見ましたよ」 「なんとしてもカッコつけさせねえ気だな」  黙ってりゃいい男だから喋ると結局カッコ良くない。  なんでもかんでも瀬名さんのせいにする俺をこの人が嫌いじゃないように、この人のカッコ良くない所が残念ながら俺も嫌いじゃない。  クマとカワウソに負けないくらい布団の下でくっついて、甘やかされるだけ甘やかされる。ベッドの中で年上の男に抱っこされながら撫でられているのに、嫌だとは一ミリも思えないのだからこれもメロメロってやつなのかもしれない。 「なあ。ついでだから最後に重要な忠告だけしておいてもいいか」 「だめです。その前置きからしてもう聞きたくない」 「まあ聞け」 「やだ」 「たまには黙って聞いとけよ。お前がいいと言うまでは俺も待つ気でいるけどな、そのあとは本気で覚悟決めろ」  さっきまではガキ扱いで背中をポンポンしていたその手が、突然下の方に向かってゆっくりとまさぐるように動いた。薄いシャツの上から腰骨の辺りを、スルッと、思わせ振りに撫でてくる。 「ボロ雑巾に成り果てるまで執拗に抱いてやる」  ピシッと硬直。当然だ。こっちはそういうのに耐性がないんだ。  行動はセイフティーだが発言は時々危うい男から脅迫でしかない宣言を受けた。全部のワードが全部怖い。ボロ雑巾って。執拗にって。一流の男はたぶん言わないやつ。  怖いことは苦手だからソソッとぎこちなく視線を逸らした。瀬名さんの胸板に軽く手をついてさり気なく腰を引いて逃げる。  グイッと抱き直された。怖い。 「あの……大丈夫です俺、何も聞いてません」 「俺は言った。そしてお前は聞いた」 「や……ちょっとよく分かんない」 「すっとぼけてんじゃねえよガキ」  何この人。 「……放してもらえると嬉しいです」 「寒いんだろ。おとなしくしてろ。なんもしねえから。今は」  今は。 「……いつかは抱くんですか」 「そりゃあな」 「……執拗に抱くんですか」 「もちろん」 「……俺を?」 「あ?」 「俺を抱くんですか」 「お前の他に誰がいるんだ」 「…………」  そうか。俺を抱くのか。ということは瀬名さん、そっちか。そうか。上か。そうか。正直ちょっとホッとした。  ボロ雑巾なんて言われちゃったのにホッとするのも変なんだけど。ボロ雑巾じゃなかったとしてもホッとするのは問題なんだが。  それとこの人、今も物理的にグイグイ来ている。 「紳士的な手順を踏みつつグチャグチャのボロ雑巾にしてやる。任せとけ」 「あなたには何も任せたくない」  エセ紳士に任せておいたらグチャグチャのボロ雑巾にされる。すでにもう若干危機を感じる。
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