男同士のセンシティブな問題

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 それとなく押さえるに留めておいた手で胸板をぐいっと突っぱねた。ついでに背を向けようと思ったがホールドされているせいでできない。仕方がないので布団の中に頭までボスっともぐり込んだ。  身を守るのに必死。なぜならば脅威は真隣。  外敵に狙われてしまったときの、ヤドカリとかカメとかアルマジロなんかはこういう気持ちだと思う。 「おい。キスは」  捕食者側に立っている男が掛け布団越しに呼び掛けてきた。  獲物の体を囲っている殻とか、甲羅とか硬質のウロコなんかを破りたくてウズウズしている肉食獣はきっとこんな感じだ。頭を出したらバリバリ食われそう。 「遥希。なあ」 「…………」  俺は今後海でヤドカリを見つけたとしても殻をつついて脅かしたりしない。カメの頭を引っ込めさせて遊んだりも絶対にしない。アルマジロが丸まっていたら可哀想にと同情する。 「キスしたいんじゃなかったのか」 「自分をボロ雑巾にしようとしてる人にそんなことできると思いますか」 「分かった。ボロ雑巾は取り消す」 「グチャグチャは」 「それも取り消す」 「執拗には」 「取り消す訳がない」 「おやすみなさい」  身を守ることが決定した。この人本当にねちっこそうだ。  俺の背中の撫で方をポンポンに戻しながら、ねちっこそうな自称一流は深々と溜め息をついた。 「恋人が無情極まりねえ」 「大事なんでしょ、俺のこと。それが愛なら示してください」 「言質まで取られた」 「自分から言ったんだろ」  勝手にペラペラと喋ったのはこの人だ。俺は衝撃を受けて動揺しただけだ。  腹の立つ溜め息をさらに長ったらしく聞かせてきたから、しぶしぶちょっとだけ顔を出す。  警戒しつつ偵察してみると、今すぐ食われそうな様子ではなかった。  頭からバリバリやられないならあったかくして眠れる方がいい。瀬名さんの首元に顔を埋め、落ち着く位置に収まった。  体温がちょうどいい。良く知った、いい匂いもする。だから懐っこい猫を真似して、顔を擦り付けた。首元に、スリッと。 「……俺は何かを試されてんのか」  うるさいからもう一度だけ顔を上げた。瀬名さんの頬に手を伸ばし、それでガシッと固定する。  動かないようにさせたのは、そうした方が俺がキスしやすいため。  むにっと重ねた。唇同士を。色気もクソもないようなキスだ。  触れるだけのそれをしている間、瀬名さんの動作は停止していた。動かなくなった男から目を逸らし、再びその首元に埋まる。 「黙って寝ましょう。おやすみなさい」 「…………おやすみ」  一流の男も案外チョロい。  こっちから急にキスすると、瀬名さんがおとなしくなることを学んだ。
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