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今期最終日で夕方前の時間帯とあって、ラウンジにいる学生はまばら。俺達と、他にちらほらいるだけ。
浩太のおかげですっきりした顔になったエリちゃんは、ヒラヒラと軽やかに手を振ってから一足先に帰っていった。
休み中に二人で遊ぶ約束もしっかり取り付けた浩太は抜け目がない。エレベーターに乗り込む間際に振り返ったエリちゃんに、ニコニコと手を振り返して愛想よく見送っていた。
「……お前は春休みも忙しそうだな」
「そりゃあ、十九歳の春休みは一回しか来ねえもん。ハルこそ休み中なにするの?」
「バイト」
「また? 夏にも同じこと言ってなかった?」
「そろそろ免許取りたいんだよ」
瀬名さんのイカガワシイ教習じゃなくてちゃんとした普通免許のやつ。
「明日みんなでカラオケ集まるけどハルも行く?」
「俺はいいや」
「早いんだよ、いつも答えが。ちょっとは考えてよ」
適当に返事をしながら自分で取ったノートに目を落とした。どうせあと一時間以上も待たなければならないのだから、あのままずっと図書館にいても良かったかもしれない。
そろそろノートとの睨めっこも飽きてきた。それをテーブルの上にバサッと置いた時、向こうから一人で歩いてくるミキちゃんの姿が見えた。
さっきと変わらず大荷物。分厚い本ばっか借りるから。
向こうも俺に気づいたようで、そこから手を振ってきたため俺も同じようにヒラヒラと返した。すると浩太も後ろを振り向き、そこにいるのがミキちゃんと分かるとスクッと椅子から腰を上げた。
「ごめんハル。ちょっとここにいて」
「んー」
エレベーターの前に駆け寄った浩太。その場で何やら立ち話。勉強も飽きたしすごく暇だし、二人の様子をここから眺めた。
ポケットから何か取り出した浩太はそれをミキちゃんに手渡している。遠目にも楽しそうなのが分かった。浩太は誰とでも仲良しだ。
「おー、ハルー?」
呼び声に顔だけを後ろに向けた。
呼んだのは小宮山。その隣には岡崎も。こいつらもしょっちゅう二人でつるんでる。
「この時間にいるの珍しいね」
小宮山に軽く頷いて返し、答えようとしたら先に岡崎が言った。
「試験の時間変更になったって言ってたよな。六限だっけ?」
「ああ、そっか。ダルいな」
この大学にはダルいやつしかいないのか。
人のノートに手を伸ばしてパラパラめくっていく小宮山。俺の半年分の積み重ねにはそんなに興味がなかったみたいで、すぐに閉じて顔を上げた。
その視線の先には浩太とミキちゃん。二人はまだお喋り中だ。
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