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「……ミキちゃん可愛いよなあ」
「ヤレそうでヤレないって子とどっちが可愛い?」
「うーん……悩む」
「そこ悩むんだ」
しょうもねえなこいつら。
「でも顔はやっぱミキちゃんかな」
「分かるよ」
「そんな子をフッちゃえる男の気持ちが俺には一生分かんねえ」
「それは俺にも分かんねえわ」
二人してこっち見てくんじゃねえよ。どうせ俺は悪者だよ。
ずいぶん前のことを責め立てられても俺が無言を貫いていると、二人の視線は再び浩太とミキちゃんの方へと注がれた。
「……暇潰しっちゃあなんだけどさ、浩太がそろそろ告るか賭けない?」
岡崎の提案に俺も顔を上げた。いきなり何を言ってんだこいつ。
思わず小宮山と顔を見合わせている。こいつも俺と同じ意味で目を合わせてきたのかと思ったら、小宮山はハハッと半笑いで岡崎に言い返した。
「あいつは告んねえって。浩太もそこまでバカじゃねえよ」
「いやでもめちゃくちゃ仲はいいじゃん。飲み会にだって浩太が呼べば絶対来てくれるし」
「毎回ハルで釣ってんだろ」
「ハルがそういう集まり来ないってもうみんな知ってるよ。俺は告る方に五千円賭ける」
友達で賭け事するなよ。
なんだかよく分からないながら傍観を決め込む俺に岡崎が迫ってくる。
「なあハル、お前はどっちに賭ける。浩太は告る? 告らない?」
「……誰に?」
「ミキちゃんにだよ、決まってんだろ。ちゃんと話聞いとけっての」
俺もその話に交ざってたのか。いや、そんなことよりも。
「……浩太ってそうなの?」
「そうって?」
「ミキちゃんのこと……」
歯切れ悪く俺が聞くと、途端に二人はギョッとした。岡崎に至っては口がポカンと開いている。
「うそだろ……え、ねえ待ってハル。鈍感って言われない?」
無神経とかはたまに言われる。
「見てれば分かんじゃん。あれはどう考えても惚れてんだろ」
と言うのは小宮山。
呆れたように次々と言われ、浩太とミキちゃんの方に目を向けた。
「……え?」
「えぇぇー」
「マジか。すげえなお前」
エレベーターがようやく来たようで、そこに一人で乗り込もうとするミキちゃん。その時外からさり気なく、浩太がドアを押さえたのを見た。
やっぱりな。あいつもあっち側のタイプだ。
エレベーターの内と外とで気安げに言葉を交わすと、ミキちゃんを見送りながら浩太はドアから手を離した。
「あ、でも……俺にミキちゃん会わせたの浩太だけど……」
「だから惚れた弱みってやつだろ。あいつに頼んじゃうミキちゃんもすごいとは思うけどさ」
「…………」
小宮山の即答。徐々に否定もしづらくなってくる。
そうこうしているうちに浩太もこっちに戻って来た。元いた場所に座り直し、賭けに使われていたとも知らずに二人と普段通り喋っている。
お前がミキちゃんに告る方に岡崎は五千円賭けようとしてたぞって告げ口してやりたい。
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