恋の悩み

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 小宮山と岡崎はこれから帰るところだったようで、それからすぐにラウンジを出ていった。  ここに浩太と残された俺。あいつらの発言が耳に残っている。  誰が誰を好きでどういう状況だろうと俺にはなんの関係もないけど、さすがにこれは、酷いことをしたかも。  言われてみれば確かに納得のいく部分も多い気はする。あの時も浩太はミキちゃんのために必死に俺を誘い出そうとした。なぜそうしたのか今分かった。好きな子の頼みだったからだ。 「あのさ浩太……」 「んー?」 「……悪かったよ」 「んんん?」  ポケットからスマホを取り出した浩太に前置きもなく謝ると、こいつは画面の操作をやめてすぐに俺の顔を見た。 「急になに。どしたの」 「……ミキちゃんのこと。もう今更だろうけど」 「……なにが?」 「いや、だから……お前の気持ちとか、知らなくて……」  人の話を聞くのがうまい奴はたったこれだけで察したようだ。驚きと感心が入り混じった顔で、まじまじと俺を眺めてくる。 「……デリカシー欠如型のハルくんがまさかそんなこと言ってくるとは」 「バカにしてんのか」  確かにあいつらに言われなければ全然気づかなかっただろうけど。  イラッと顔をしかめた俺に、浩太はヘラヘラ笑って返してくる。こいつはいつも穏やかだ。怒ったところなんて見たことがない。  あの時も自分の気持ちを隠して、俺とミキちゃんをくっつけようとした。 「ハルが謝ることじゃないんだから気にしなくて大丈夫だよ。ミキは俺のことなんとも思ってないんだし」 「あの子は気づいてんのか……?」 「まさか。気づいてないよ、俺にハルのこと頼んでくるくらいだもん。分かっててそんなこと言ってくるような奴じゃない」 「…………」  小宮山はああ言っていたけど、今なら俺も浩太に賛同できる。  あの子はそういうタイプではない。分かっていて利用はしないだろう。 「高校からの付き合いって言ってたよな」 「うん。だからこそ余計にね。男と女の間にも友情は成立しちゃうわけだよ、惚れた方がずっと黙ってれば」 「……いいのか?」 「いいも何もないかなあ」 「俺と引き合わせてないでさっさと自分が告ればいいのに」 「それ言う?」  ははっと笑って見せる浩太は、本当にそれで満足なのか。好きな子とどんなに仲良しでいられても、他の男に持っていかれたらいい気分はしないだろう。
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