にゃーにゃーにゃー前夜

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「お帰りダーリーン! ずーっと会えなくて淋しかったよーッ。きゃぁっ」 「…………」  明るくお出迎えをした二条さん。忌々しそうな顔をする瀬名さん。  二条さんの一歩後ろにいる俺に、瀬名さんはジトッと目を向けてくる。 「……なぜこいつを部屋に上げた」 「クッキーくれたので」 「餌付けされてんじゃねえ」  お菓子の箱をどうぞと渡されたらお通しするのが日本人の礼儀だ。  手土産付きのお客さんを追い返すような教育は受けていない。  ここは俺の家じゃないけど。好きに過ごせと言ったのは瀬名さんだし。  訪ねて来てくれた二条さんを人んちにどうぞと招き入れ、少し前まではタラタラペラペラと世間話に花を咲かせていた。  二条さんがやって来たのはかれこれ四時間ほど前のこと。瀬名さんの部屋のベッドの上でゴロゴロとスマホをいじっていたら、たくさんの食材とクッキーを持った二条さんがインターフォンを鳴らした。  水曜日は二条さんのお店の定休日だ。そのうち良かったら食べに来てと、前々からそうとも言われているから近いうちに行けたらいい。  七時を過ぎた辺りで一緒に晩飯を作り始め、あとは皿に盛るだけの状態になって少しした頃に瀬名さんも帰ってきた。そして二条さんが出迎えた。  その後の瀬名さんはずっと機嫌が悪い。ジャケットとネクタイだけ適当に放り投げてダイニングに戻ってきたこの大人は、監視でもするかのように二条さんの一挙一動を見ている。 「え、食べていかないんですか?」 「うん。そろそろ帰らないと陽子ちゃんに蹴られるから」 「そっか、ごめんなさい引き止めちゃってて」 「いやいや、ハルくんと話してんの楽しいから俺もつい長居しちゃったよ」  レストラン風の綺麗な盛り付けをしながら二条さんはニコニコと言った。それをぽつんとテーブルに座って眺めているのは不機嫌な瀬名さん。 「……お前らいつの間に仲良くなった」  声まで不機嫌。大人げないんだから本当にもう。  一度だけチラリとその不機嫌顔を振り返り、すぐに手元の皿に視線を戻した。後ろには素っ気なく一言だけ投げておく。 「あなたには教えません」 「そうだよ、俺とハルくんの秘密なんだから恭吾が割り込む隙間はないよ」 「お前は帰れ」  イライラしている瀬名さんは貴重だ。  お恥ずかしいところを二条さんにお見せしてしまったあの一件のすぐあとだった。瀬名さんがまだ繁忙期で帰りが遅かった頃でもある。  この前色々と騒がせたお詫びにと、わざわざ俺の部屋を訪ねてくれた。その時も菓子折り付きだったからお通しするのは当然だった。  その時ついでに時短料理の作り方もいくつか教わり、時々連絡を取り合うようになったのはその日から。  二条さんのおかげでメシを作る時の効率がちょっと良くなった気もする。  そうやって育まれた友情だけれど瀬名さんは気に入らないようだ。行儀悪くテーブルに頬杖をつき、二条さんをずっと睨みつけている。
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