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しかし俺のメシとは格が違う。プロなのだから当然だろうけど。
いま瀬名さんが食っているのは料理名すら存在しないような、ぶつ切りぶっ込み煮込み野菜だ。
「これの味付けは?」
「味噌と豆乳です」
「良妻かよ」
「違いますよ」
豆乳の賞味期限もヤバそうだったから一緒にぶっ込んでみただけだ。
「あなたのそれは贔屓目って言うんです。学生の手抜き料理がコックさんに敵うはずないじゃないですか」
「贔屓目なんかじゃねえ。俺は公平に事実を言ってる」
「タラのクリーム煮の時の方が明らかに食いっぷり良かったですよ」
「それこそお前の幻覚だ」
強気の断言。別にいいんだけど。作ったメシにケチ付けられるよりは。
食いっぷりをひけらかすみたいに野菜のごった煮を口に運び、それでいて所作は綺麗で丁寧。
コックさんの料理だろうと庶民が作ったもんだろうと、この人が食っているとなんでも上等そうに見えてくる。
上等な男の口に合う料理を作るための第一歩として、俺も魚くらいはさばけないと。
この前もクリーム煮を満足そうに平らげた瀬名さんを見て、二条さんの料理が大好きなんだなと思いつつもいささか複雑ではあった。もうちょっとくらいは、頑張らねえとなって。
などと健気ぶって反省しつつも、今日作ったのは粗雑極まりないこのごった煮なんだが。小皿に出してあるひじきの煮物なんか思いっきり昨日の余り物だ。
こんな奴のメシによくもこの人は最高なんて評価を平気で出せる。本当に美味いと思ってんのか疑わしくその顔を見ていたら、瀬名さんが不意に顔を上げた。
「どうした」
「いえ……。別に」
「お前が俺の顔を好きだってことはちゃんと知ってるからそんな見つめるな。さすがに食いづらい」
「バカじゃねえの」
メンタル弱かったり自信過剰だったりこの人も忙しい。
その顔が好きなのは確かに間違ってはいないから、それとなく目を逸らした。
「……それよりさっきどこ行ってたんですか」
「うん?」
「帰ったらいなかったから」
「誕生日前日の恋人がバイトなんか行っちまって残された俺はとても寂しかったから仕方なく一人で買い物してた」
「そんなネチネチした言い方する必要ありますか」
余計なこと聞くんじゃなかった。
「明日はマコトくんの家から寄り道せずに帰ってこいよ」
「今日も花屋からまっすぐ帰って来ましたよ」
「中学生相手にエロいバイトしやがって」
「エロくないってば。明日は理科と数学のおさらいするんです」
「くそエロい」
「どこが。え、どこが?」
ふんっと不機嫌そうに横を向いた。感じ悪い。大人げない。
「お前は俺には懐かねえのに隆仁の野郎には尻尾まで振る。俺には家庭教師してくれないのにマコトくんには家庭教師する」
「どっからツッコめばいいの」
「なんで恋人の俺に構わないんだ」
「あんたに構ってない時ないですよ」
これ以上どう構えと言うのか。
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