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「はよー」
「おう」
「あのさあ、ハル」
「んー」
一限目の講義前。室内にはちらほらと学生たちが集まってくる。
軽い挨拶とともに呼び掛けられて、隣の席に腰を下ろした浩太に適当に顔を向けた。
「お前、明日ヒマ?」
「なんで」
「飲み会しねえ?」
「どこで」
「お前んち」
「あ?」
時間潰しに手にしていたスマホを机の上に置いた。もしかしなくても面倒くさそうな話だ。
「ハルの家って一度行ってみたかったんだよ」
「知らねえよ来んなよ」
「冷たいこと言うなって。お前は外にメシとか誘っても来ないじゃん」
「行ったろ」
「四月に一回だけじゃねえかよ」
浩太とはこの大学で知り合った。学部も学科も同じだから受講している講義が被っている事も多い。
それもあってここに入学したその月に食事会に誘われて、断るような理由もないからついていったことが一度だけある。同期以外に知らない先輩達もいるような大人数の席だった。
あの時は酷い目に遭った。食事会とはつまり飲み会。年がいくつとかそういう言い訳もああいう席では通用せずに、強制的かつ初めての飲酒行為でビールは苦くて不味いんだと知った。
何があっても二度と酒なんて飲みたくない。そう思った苦い記憶だ。
「なあ、いいだろ。ハルの所なら大学からも近いし」
「お前なんかにウチの場所教えるんじゃなかった」
「ひでえから」
酷いともなんとも思っていないようにカラッと返され、机の上に置いたスマホをついでとばかりに引っ手繰られた。
「なー。ハルってばー」
「ダメ。スマホも返せ」
「頼むって。店入ると高くつくしさ」
「人の部屋を居酒屋代わりにすんじゃねえよ。いいからスマホ返せ」
取られた人質を奪い返した。カバンの中にしまい込んで百パーの拒否を態度で示す。けれどこいつは空気を読まない。
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