彼氏の実家

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***  冷蔵庫では桃を冷やしてくれているそうだ。  俺がそろそろ出る頃になると瀬名さんはそう言って腰を上げ、頭のてっぺんからつま先まで人の体を舐めるように見てから一足先に風呂場を後にした。服はすっかりびしょ濡れだった。  キキとココはずっと一緒にいてくれる。洗面所のドアは瀬名さんが隙間を開けていったからいつでも廊下に出られるはずだが、俺が風呂から上がって髪を乾かしている間もそばに二匹とも張り付いていた。  二匹を引き連れてリビングに戻ると、しかし瀬名さんがそこにいない。トコトコ歩く猫二匹を見ながら部屋の中で一人キョロキョロし、南側の大窓の白いレースカーテンがヒラリとゆるやかに揺れたのが見えた。  窓が開いているようだ。微かに風が入ってくる。そっちに近付きながら確認するように、控えめに声をかけた。 「瀬名さん……?」 「こっちだ」  乾いた服に着替えていた瀬名さんがカーテンを開きながら顔を出した。  そこがウッドデッキになっているのは明るいうちに見て知っていた。広々としたナチュラルブラウンの快適そうなスペースだ。  手招きされて俺もそこに出る。大きな掃き出し窓の幅をすっぽりと覆える広さの空間。今は暗くてはっきり分からないが、テーブルと二つの椅子もデッキと同系色に揃えてあった。  そのテーブルの上には小さく切った桃が乗っている。リビングから漏れる光と、デッキの両端の屋外照明。オレンジ色のほのかなライトが視界を穏やかに助けてくれた。 「あったまったか」 「はい。お先にありがとうございました。ほんとにキキココずっと一緒にいてくれましたよ」 「お前は特に気に入られたからな」  テーブルの上にも小さなライトがある。桃の横に置いてある皿に乗っていたのはクッキーだった。  引いた椅子に俺を座らせると瀬名さんはリビングに戻った。室内の照明をなぜか暗めに落とし、それからまた戻って来ると、窓際からこっちを窺っている二匹にそっと呼びかけた。 「お前らも来るか?」  その声に応じるように二匹ともデッキにトコトコ出てくる。  そのまま外に飛び降りることもなく、俺のそばにちょこんと座ったのはキキさん。ココはしばらくウロウロしていたが、俺の右隣に椅子を寄せた瀬名さんがそこに腰かけたのを見ると、トトトッとその足元に駆け寄り体をこすり付けていた。そしてキキと同じようにおとなしくちょこんとお座り。  猫とデッキと広い庭。テーブルの上には桃とクッキー。  すすめられてデザートフォークを桃に刺すと瑞々しい感触。パクッと頬張れば期待した通り、甘い香りが口いっぱいにふんわりと広がった。  桃を食ってクッキーもつまんで足元では時々スリスリされて。夏だけれど夜風はちょっと涼しく、余計な雑音も人工的な景色も煩わしいものは何もない。  最高の環境でゆったりくつろぐ。椅子の背もたれもちょうどいい角度。これ以上ないほどの好待遇だが、瀬名さんのおもてなしはこれで終わらなかった。
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