貢がせて、ハニー！

彼氏の実家

＊＊＊

「客間で悪いな」
「いえいえ。こちらこそすみません、お手数を」

　寝床として通されたのは一階の奥にある和室だった。全体的に洋風な家だがこの部屋は和モダンって感じ。
　清潔感のある白い壁とヘリのない爽やかな畳が程よく高級感を醸している。瀬名さんのお母さんの妹の旦那さんのフランス人であるテオさんは、長期休暇でたまにやって来るとその度に大喜びするらしい。

「畳に上がるの久々です」
「実家では和室で寝てたのか?」
「いえ、俺の部屋はフローリングでした。瀬名さんも?」
「ああ。今はもう俺の部屋じゃねえけどな」
「瀬名さん実家に自分の部屋ないの?」
「ない」

　実家を出た長男の扱いなんてどこのお宅でもこんなもんだよな。俺の部屋はまだちゃんとあるかな。

「今は何に使ってるんです?　物置代わり?」
「キャットルーム」
「なにその楽しそうな部屋」
「キキココの運動部屋兼オモチャ置き場みてえなもんだ。親父は書斎にしたかったらしいから取られたって未だにずっと言ってる」

　家にいるお父さんの扱いなんてどこのお宅でもそんなもんだ。うちの親父も書斎やら趣味部屋やらは絶対に作らせてもらえないと思う。

「見るか?」
「見たい」
「猫ちぐらがある」
「入る?」
「入らない」

　入らないんだ。

「前回帰ったとき買ってきたんだがあいつら全然見向きもしねえよ。貢いだ家より家を入れてあったダンボールの方が気に入ってた」
「そのダンボールは?」
「ボロボロに破壊するだけして満足したっぽいから処分した」
「あぁ……」

　猫あるある。

　客間を出て一度リビングを通るとキキココが仲良く眠りに就いていた。キキの首元にココが顔を乗せてのんびりもふっと丸まっている。
　二匹の下にあるモコモコでふかふかのクリーム色をした大きいクッションも瀬名さんが贈った貢ぎ物だそうだ。見向きもされなかったちぐらとは違ってそのクッションは日々使われているのだろう。

　リビングから繋がる折り返し階段を上り、廊下奥の部屋のドアを瀬名さんがガチャリと開けた。元瀬名さんの部屋で現キャットルームは名前通り楽しそうな部屋だった。
　左の壁に何枚か取り付けられているのは小さなステージ。階段状に設置され、窓の上にあるキャットウォークまで真っすぐ行けるようになっている。
　リビングにもキャットウォークはあったがこっちのはプレートが透明だ。下から覗けば肉球が見えるはず。モフモフたちはお腹側もかわいい。

　目に入るのはそれだけじゃない。ここはおそらく八畳くらいか。その中にはおもちゃがあり、おもちゃがあって、そしておもちゃがある。貢ぎすぎだ。
　入ってもらえない猫ちぐら二つは壁際に寂しく放置されている。隅の棚には新品らしきゴハン皿とか給水器とか。じゃらし系アイテムやクッションも目に付き、アスレチックポイントも多数。今すぐ猫用のショップを開けそう。