彼氏の実家

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「これ全部瀬名さんが買ったの?」 「全部じゃねえ。家族全員であいつらを甘やかそうとするからこうなる」 「血ですねもう」  瀬名一族の血統だ。濃い目の性質的遺伝を感じる。貢いじゃう気質のご一家なんだ。  楽しそうな部屋を見渡しながら隅の棚の前に行き、タヌキのしっぽみたいなおもちゃを適当に手に取った。 「これ買ったのは?」 「俺」  あんたかよ。タヌキを置いてモチッとした青っぽいボールを手にした。 「じゃあこれは?」 「俺」 「こっちのクッションは?」 「俺」 「この知育製品みたいなやつ」 「俺だな」 「隠れ家っぽいこの家は?」 「俺」  瀬名さん貢ぎ物ばっかりだな。ならばこれはどうだと意気込み、ピンク色でメルヘンチックなトンネルみたいな遊び場を指さす。 「あれは?」 「俺」 「…………」  ウサギやネコやイモムシやトランプたちが喋り出す世界に繋がっていそうな大物おもちゃまでこの男なのか。  逆に瀬名さんが買った物ではないのはどれだ。全然分からないし見つかりそうもないので、手近なところにあったアライグマ柄のしっぽ系じゃらしアイテムを無言で示した。瀬名さんの答えは一言。 「俺」 「全部あんたじゃんか。貢ぎすぎだろ。しかも使ってもらえてないし」  二つの猫ちぐらは壁際でポツン。メルヘンなトンネルも新品同様。タヌキとアライグマはほぼ被っていて、人間の赤ちゃん用にもありそうな木製の知育玩具的なのも使用感が全くない。  この部屋だけ物がたくさんあるのに散らかっていないのはさすがと言うべきか。オモチャもベッドもハウスもクッションも一つか二つもあれば十分だろうに、これは明らかに買いすぎだ。 「こんなことばっかしてるから部屋没収されてキャットルームにされちゃうんですよ」 「特に不便はない」 「年一で戻るか戻んないかくらいならそうでしょうね」 「前はもうちょっと帰ってた」  俺もそろそろ帰省しておかないと早くも部屋の物を処分されそうな危機感が増してきた。ガーくんの部屋はウチの庭全部だからダックルームにはされないだろうけど。  夏のうちから春休みの予定を考え始める俺の横では、瀬名さんが棚から何かを取った。じゃらし棒の先に灰色の物体が付いたそれを自信満々に見せてくる。 「見向きもされねえ物だけじゃねえぞ。これはな、キキが気に入ってる」  ネズミのおもちゃだ。確かに年季入ってるご様子。遊んでもらったのが伝わってくる。持っているとキキが構ってくれると言っていたおもちゃはこれのことだろうか。  猫じゃらしグッズは大概そうだが、ぶっさいくな顔をしたネズミだった。右側の目がちょっと取れかかっている。  無残だ。これをあの猫がやったのか。上品そうな白黒のネコさんもネズミを前にするとハンターになる。 「ココはこれだ。一度抱きつくとしばらく離れない」  サカナのぬいぐるみを見せられた。けりぐるみと言うのだろうか、これもかじられた形跡が随所に。 「ボロボロですね」 「お気に入りだからな。このフォルムがいいんだと思う。曲線がちょうど体にフィットして後ろ足でも蹴りやすい」 「はいはい」  おもちゃ自慢を聞き流しているとドアからもっふりした二匹が入ってきた。キキはネズミのおもちゃを持っている瀬名さんの右手にトコトコと進み、ココはサカナのけりぐるみを持っている瀬名さんの左手めがけて突進してくる。  お気に入りのおもちゃだと豪語するだけのことはあった。瀬名さんからサカナを奪い取ったココは、床の上でそれをカジカジ蹴り蹴り。キキも瀬名さんにじゃらされるままネズミを前足でぶっ叩きはじめた。  そんな二匹を見下ろしてから、どうだとでも言いたげな顔をこっちに向けてきた男。 「な?」 「分かりましたから」  鼻高々だ。
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