彼氏の実家

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 元気に暴れ回るココと、獲物を的確にぶん殴るキキ。猫パンチの威力が凄まじい。ぶさいくなネズミの右目が取れかかるのもこれならば分かる気がする。  ココはサカナにしがみついてひたすら痛めつけているが、しかしキキはしばらくするとネズミをいたぶることに飽きてきたようだ。  瀬名さんのじゃらし行為につれなくなった。しまいにはプイっと顔を背けてトコトコと歩き出す。 「フラれた」 「フラれましたね」  きわめて見事なフラれっぷりだった。  ものの数分でおしとやかな猫に戻った黒白のキキは、俺の足にスルリと体をこすり付けてからひょいっとステージの上に登った。そのまま二段目に飛び乗ったところでそこにモフッと静かに身を伏せ、尻尾をゆるくパタリと揺らすと眠たそうにゆっくりまばたき。 「疲れちゃったかな」 「あれは安心してるときの顔だ」  あれだけ惨たらしくネズミを甚振るのだからキキには脅威なんてないだろう。  瀬名さんはぐったりしたネズミを棚に戻し、今度は壁際に並んだちぐらのうち一個だけを持ってきた。ドーム型でしっかりとした作りのそれを渡される。弾みでつい受け取ってしまった。  両腕に収まった猫の家。寝心地の良さそうなベッドにも見える。 「……なに?」 「遥希ならキキをおびき寄せられるかもしれない」 「おびき寄せるって……ヤですよそんな捕獲みたいなこと」 「頼む。本当に一回も入った事がない。興味ある素振りすら見せねえんだよ」 「気に入ってもらえなかったってことでしょ。潔くどっかの保護施設にでも寄付したらどうです?」 「いつかは入るかもしれない」 「いつかっていうのは来ないもんですよ」  ダイエットの開始だろうがジョギングの習慣化だろうが不用品の処分だろうがなんにだって当てはまる。いつかと言い出してしまった時点でそのいつかは永遠にやって来ない。  無駄に高級そうなこのちぐら。てっぺんには猫耳のようなとんがりが二つ付いている。入ってくれたら絶対に可愛いと思いたくなるのも分かるけれど、人間の都合に合わせないのが猫だ。  ココはしがみついていたサカナをぶっ飛ばしては追いかけて捕らえるという新たな遊びに興じているし、キキはステージの二段目から動かずゆったりと寝そべりながら時々しっぽを揺らしているし。  全然ちぐらに興味を示さない。瀬名さんの言う通り見向きもしない。しかしその視線に促され、仕方なく猫耳ちぐらを膝の間に置いて座った。するとタイミングよくキキがこっちに目を向けたから、ぽんぽんとちぐらの上部を叩いて無駄だと思いつつも呼んでみる。 「キキ。おいで」  ポンポンと手で示しているから一応ちぐらを見るだけ見てはいる。だか黒いしっぽはパタリと。つまらなそう。
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