彼氏の実家

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 こりゃダメだ。一ミリも気に入っていない。瀬名さんの悲願達成なんかにこのまま協力し続けていたら俺がキキに嫌われる。  すぐさまちぐらを横によけた。座り直して、今度は自分の膝をポンポン。 「キキ」  呼び声にこたえるかのようにむくりと起き上がったキキ。ステージから軽やかに降りてくる。  まっすぐこっちに向かってくると、あぐらをかいた足の上に乗って躊躇なくごろんと横になった。俺の太ももを枕代わりに、目を閉じながら丸まったモフモフ。 「かっわ……」  俺は満足。瀬名さんは不満そう。 「なんでだ。一番良さそうなちぐらだったのに」 「レディーたちを物で釣ろうなんていう浅はかな魂胆がいけないんですよ」 「お前もおやつで釣ろうとしてただろ」  瀬名さんも隣に腰を下ろしてキキのお腹に手を伸ばした。白と黒の境目をひと撫で。  脇腹を撫でられても嫌がらない猫がちぐらだけは嫌がる。完全にチョイスミスだ。 「ちぐらは寄付決定ですね」 「仕方ねえ。今度はもっと気に入りそうなの探してくる」 「懲りろよ」  ダメだこのおっさん。  二人してキキをモフっている横では、とうとうサカナに飽きたココがジャングルジムにダダダッと登った。頂点まで行くと俊敏にダッと駆けおりてこっちにかっ飛ばしてしてくる。  そばに来たから顔を撫でるとうにゃっと頭を擦り付けてくる。ついでに隣の瀬名さんの足にもボフッと元気よく頭突きをかました。  そしてまたしてもダダダダッとダッシュでジャングルジムに登って、降りて。登って降りて。もうひとつおまけに登って降りて。床を一周ぐるっと全力で駆けめぐって再び登って。 「元気っすね……」 「突如として夜の一人大運動会を開催することがよくある」 「キキが全く動じないんですよ」 「慣れてるからな。食と睡眠の邪魔にならない限りは黙ってるはずだ」 「邪魔されると?」 「非常に厳しい躾けが始まる」  上下関係がやっぱり分かりやすい。今は特に邪魔されていないから、体力の有り余っている若猫をお姉さんキキは無言で眺めていた。  猫は降りるのが下手な子も多いがあのジャングルジムはちょうどいい高さなのだろう。一番上からトウッと飛び降りてシュタッと綺麗に着地した。  ドヤッとした顔をしながら心なしか得意げな歩調でタシタシとやってくる。華麗な着地を披露したココをモフモフしたらじゃれ付いてきた。  指先を甘噛みされて撫でてやるとスリスリで返してくる。茶トラの両前足がちょこんと膝にかけられ、しかしこの場所を先輩ネコが占拠しているのを確認するとココはそそっと遠慮した。  隣の瀬名さんの膝にヒョイッと上がって同じように抱っこされた後輩ネコ。なんだかんだでこの子も賢い。瀬名さんはココを見下ろし優しく笑った。 「いい子だ」  大きな手に撫でてもらったココは、さっきよりも得意顔になってシマシマのしっぽを自慢げに揺らした。
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