彼氏の実家

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***  キャットルームでキャッツに遊んでもらい、二匹がまたそれぞれ自由に一人遊びを始めたところで部屋を出てきた。  一階の客間に戻って押し入れから出された二組の布団。瀬名さんには部屋がないから帰ってくるといつもここで寝ているらしい。  綺麗にされているふかふかの布団を畳の上に敷こうとすると、もう一組を見下ろしながら瀬名さんが呟いた。 「一組でもよくねえか」 「俺は二組がいいと思います」 「どのみち同じ布団で寝るんだぞ」 「なんでそんな話になるの」 「遠慮しなくていい」 「してないです。ここをどこだと思ってるんですか」 「俺の実家だ」 「部屋ないくせに」  野良猫よりも居住権がない。  リビングは広くこの客間も広くて庭は広大。広々とした一軒家。人んちを探検したわけじゃないから定かではないものの、家の外観から推定する限り居室もたぶん多いと思う。  しかし瀬名さんの部屋は潰された。お父さんは書斎を作ってもらえなかった。  このお宅には現在二匹の猫と、瀬名さんのご両親が住んでいる。他にもあると思われる部屋は何に使っているのだろう。 「妹さんも部屋ないんですか?」 「二階にある」 「あるんだ」 「あいつの方が滅多に帰って来ねえのにこれだよ」 「そんなもんですって、男の地位って」  俺ももう部屋ない気がしてきた。 「二階にもう一つドアありましたよね?」 「あれは妹の衣裳部屋だ」 「いないのに?」 「いないのに。そういうもんだろ」  そういうものだ。 「下にはおふくろのリラクゼーションルームと読書部屋とドレスルームも別にある」 「おぉ……」 「うちではとにかく女が強い。特におふくろの発言権が強い。親父が甘やかすから余計に」 「お父さんどんな人?」 「妻一筋」  お父さんどんな人って聞いてその一言だけ返ってくるのも珍しいが瀬名家だしな。その息子であるこの人がこれだからあり得ないとは言いきれない。むしろ大いに納得できる。 「風呂場のリフォームもそうだった。ココがうちに来て半年くらいした頃だ。猫を眺めながらゆっくり風呂に入りたいとか急に言い出して……」 「それをお父さんが叶えちゃったんだ」 「いいや。あの親父に任せておくとおふくろにせがまれるまま家丸ごと建て替えかねねえ。そうなる前に話聞いてすぐ俺が手配した」 「え……あれ瀬名さん?」 「あれこれ好き勝手に注文付けただだけで頑張ってくれたのは業者だけどな」  五年前のお風呂リフォーム。洗練されたあの空間。  オーダーメイドだというのは聞いていた。そのオーダーをこの人が出した。アロママッサージにしてもオムレツの作り方にしても、やるとなったらとことん突き詰める男があの開放的なお風呂を注文した。 「……瀬名さんは住宅業界にも転職できそうですね」 「それは住宅業界に転職して俺たちの愛の巣を作れという遠回しな要望か」 「違います」 「分かった。叶える」 「違います、やめて」  ちゃんと止めないと本当にやりかねない。
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