瀬名家

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*** 「……これはズルい」  黄色い猫目がこっちを見ていた。 「保護した翌々週くらいだったと思う。うちにもだいぶ慣れてきたようだったからその頃に親父が撮った」 「あぁ……かわいい。ヨタヨタしてそう」 「してた」 「ああぁぁぁ」  ルルさんの子猫時代をまとめたアルバムで発狂しそう。灰色の小さな子猫がカメラに向けて首をかしげている。  キャットルームにはオモチャだけでなく猫さんたちの思い出も詰まっている。大量のアルバムは棚に並べて大切に保管されていた。  その中の一冊を取り出した瀬名さんに幼き日のルルを見せられた訳だが、とんでもなく可愛らしい。大人になった灰色の美猫は前にも見せてもらったけれど、手のひらサイズだったこの時代も守りたくなるような愛嬌だ。 「ちっちゃくてもちゃんと元気そう」 「ああ。ルルはこう見えて根性がある。拾った時は今にも死んじまいそうだったのに頑張って生きてくれた」  ルルの成長記録がここにはあった。弱そうだけど活発な子猫がスクスクと美しく育っていく。  そんなルルに育てられたキキは今、透明なキャットウォークの上からじっとこっちを見下ろしている。寝そべりながら時折しっぽをパタリと揺らしていたのだが、何かを思い立ったかのようにその場でむくりと体を起こした。  くくっと体を伸ばしてから一段ずつステージを降りくる。床までトコッと到着すると、迷わずこっちにやって来た。  開いているアルバムの前で静かに座り込んだキキ。写真を見下ろし、鼻先を近づけ、透明なフィルムの上からルルの姿をくんくんしている。 「分かるのかな?」 「どうなんだかな。俺らがルルって言ってたから気になるのかもしれない」  猫の視力はそんなによくない。でもキキのこの様子からして、写真の中にいるルルの姿を認識しているとしか思えなかった。人間の勝手な見立てだけれど。  猫にだって感情はある。好きになった相手は忘れない。  写真をずっとクンクンしているキキの黒い頭を瀬名さんが撫で、一緒にルルを思い出すみたいにその手に顔をこすり付けたキキ。  旅立った誰かを思い出すのは人間も動物もきっと同じだ。家族の灰色猫を思い出す瀬名さんとキキの繋がりは強い。 「ニャア」  若々しい鳴き声に顔を上げた。ココがいつの間にかすぐ近くまで来ている。さっきまで格闘していたトンボ型の小さなおもちゃは向こうでラグの上にブン投がっていた。  トコトコ歩いてきて通り過ぎざま俺の足にスリッとすりつき、その鼻先をキキに近づけると慰めるように顔をくっつけた若猫。キキもすぐにそれに応えた。額同士をモフッと合わせた二匹。  躾にすごく厳しいキキは、それ以上に面倒見がよくて愛情豊かなお姉さんなのだろう。お世話してくれた先輩ネコに、大人になった後輩ネコが寂しくないように寄り添っている。  人間が使うような言葉がなくても猫はこうやって気持ちを伝える。スリスリするのはマーキングだけじゃない。人と同じだ。これは親愛の証し。 「いい家族ですね」 「だろ?」  誇らしげに瀬名さんは言って、キキとココの頭を撫でた。
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