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ペロペロし合っているうちに二匹の猫はゆったりしてきた。
日の当たるキャットルームでキキココがお昼寝モードに入った頃、俺と瀬名さんは買い出しも兼ねてちょっとしたドライブに出発。
教習所の近くに比べると買い物できる場所もそれなりに多い。途中で小学校も見かけたし病院や診療所もちょこちょこあるらしいし生活するのに不便のない町。
田舎出身みたいなことをこの人は前に言っていたけど、本気度の高いど田舎ではなく住み心地良好な地方都市だった。
「ここは確かに地方ですけど辺鄙な田舎とは違いますよ」
「まあまあ田舎だろ。ここまで出て来ねえとウチの近所にはコンビニくらいしかない。そのコンビニだって歩いて五分強はかかる」
「ウチの実家から最寄りのコンビニまで歩いて行くならニ十分はかかります。そのコンビニができたのも今から六年くらい前です」
「すまん。田舎を分かってなかった」
不毛な田舎対決に勝利した。
地方だとか片田舎だとか、一応の定義はあってもみんななんとなく曖昧だ。でもここは少なくとも辺鄙ではない。村とか里って感じでもない。
瀬名さんのご実家の周辺はのどかで車の通りもほとんどないが、細い道をまっすぐ進めばすぐに国道に入れる立地だ。その道をしばらく車で走ってこの商業地域まで出てきた。大都会とは言えないにしてもそれなりに人は多いしそれなりの建物もある。
「いいなぁ。これくらいの賑わいがあったら俺も地元でもっと楽しい高校生活送れたと思う」
「ガーくんとドングリがあれば十分すぎるほど楽しいだろ」
「いや、楽しいですけど。そういうんじゃなくて。……ここら辺って映画館あります?」
「映画館?」
首をかしげつつもハンドルを握りながら瀬名さんはまっすぐ前を見て言った。
「このまま行くと駅があるんだが、その向こうに出て十分くらい走れば映画館も入ってるショッピングモールに着く」
「ほらぁッ! ウチそういうのなかったですもんっ。映画館行くならまず中心地出なきゃなんないからトータル二時間はかかります」
「長ぇな」
田舎の電車は待ち時間が長い。本数がないのは言うまでもないが、それに加えてウチの最寄り駅には駅員さんもいなかった。
生活するのに不便しかない。こことはまるで状況が異なる。きちんと整った商業地域は数年やそこらでできるもんじゃない。
「この辺りは昔からこんな感じなんですか?」
「そこまでガラッと変わったってことはねえと思う。ああでも、昔はあんなマンションなかった」
前方右側を軽く顎で示され、俺もそっちに目を向ける。高層と言える真新しいマンションだ。
駅に近付くにつれて高さのあるこの手の建物もちょっとずつ増えてきた。取り残される田舎と取り残されない地方の差はこういうところにも出ている気がする。
「逆に昔からあったファッションビルがいつの間にかなくなってたことはあるな。商店街も年々静かになってくしデパートも昔ほどは客が入らねえ」
「デカいショッピングモールできちゃうと大体どこでもそうなりますよね」
「行こうと思ってて結局一度も行かねえままだった定食屋もいつの間にか潰れてたんだよ」
「ありがちだけどめっちゃ悲しいやつ」
そういうのは行こうと思った時にさっさと行っておくべきだ。
少し先の信号が変わって車の列がゆっくり止まった。瀬名さんはブレーキの踏み方一つまで懇切丁寧安心安全。そんな男の運転する車はこれ以上ないほど乗り心地がいい。
ゆったりとシートに凭れて呑気に乗っかっているだけの俺に、瀬名さんはチラリと目を向けてきた。
「いま腹減ってるか」
「え? うーん……いや、そうでも」
「次の信号曲がったとこにパーキングがあってな、そこから五分くらい歩いていくと小さい甘味処がある」
「腹減ってきました」
「味もメニューも悪くねえのに店の場所が微妙なせいで客の入りがそんな良くないって噂だ」
「行きましょう。いつの間にか潰れちゃう前に」
そういうのは興味を持った時にさっさと行っておくべきだ。
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